(以下は、デジタル経済に関するOECD閣僚級会合2016のTUACフォーラムでのパネルディスカッションでのスピーチの和訳です。原文はこちら。)
Q. 開かれたインターネットは重要なのでしょうか?
端的にいうならば、インターネットへの自由なアクセスが、より高い生産性とより公平な富の分配の実現の鍵となるからです。説明しましょう。
現在私たちは第三次産業革命の終わりに近づいており、第四次産業革命に入ろうとしています。これはモノのインターネット(IoE)と人工知能(AI)によって推し進められています。これらはAPIと呼ばれるものを使ってやりとりするため、この革命はAPIエコノミーとも呼ばれます。
これまでの全ての産業革命がそうであったように、私たちは今、生産性の急激な増加と価格の大幅な下落~デジタル・デフレーション(Digital Deflation)を目の当たりにしています。しかし、これは悪いことではありません。生産性の向上は、より少量でより多量のものを作り出すことができるようになりますから、平均でみるなら社会はより豊かになりますし、価格の下落は、それまで供給することができていなかった社会層へのサービスの供給も可能にします。
たとえば金融では、一部の機関が(これまでこうした融資を受けることのできなかった)中小企業向けの運転資金ローンを始めています。これは、APIと人工知能の利用によって、その企業のリスク状況をより安くより正確にすることができるようになったから実現したのです。
より未来的な例としては、中央にいる技術者がVR(仮想現実)機器を使って、現地の技術者にリアルタイムで指示を与えて、やはり現地で3D印刷された部品を使って修理を行うなどということが考えられます。
しかし、こうしたことは、ITAC(インターネット技術諮問委員会)が考える4つの重要課題の解決なしには実現しないのです。
デジタル経済の将来のための重要課題
- 信頼できる技術
- 拡大された接続性
- 開かれたインターネット
- 利用者と労働者のスキル向上
第一次産業革命のころを思い起こしてみましょう。第一次産業革命では、前例のない高成長を遂げました。その中心にあった技術は蒸気機関と紡績機械です。ヨーロッパはこれらの技術にアクセスできたので、その住民はより良い生活を享受することができるようになりました。しかし、その技術にアクセスできなかった人々~主にインドですが~は、飢えに直面せざるを得ませんでした。技術へのアクセスは、こんなにおきな違いを生むのです。そして、第四次産業革命を推進する主要技術は、開かれたインターネットを通じた信頼できる接続性と人々のスキルなのです。
現在世界の人口の約半数がインターネットへ接続されていないと見積もられてます。これは、彼らを第一次産業革命時のインドの製綿事業従事者と同じ状況においてしまいます。
この状況は変えなければいけません。
彼らに接続を与えなければなりません。それは、開かれていなければなりません。でなければ、許可無きイノベーション(permissionless innovation)は実現しません。
それは、プライバシー面でもセキュリティ面でも安全で信頼できるものでなければなりません。でなければ、人々はそれを使わず、データは流れなくなるでしょう。
そして、人々は訓練されなければなりません。でなければ、この技術を使いこなせるようにならないでしょう。
ですから、この4つのポイントは、とても重要なのです。
Q. プライバシー行政の課題にはどういうものがあるでしょうか?
プライバシー行政に関しては、いくつか乗り越えるべき課題があります。
- 産業界における、プライバシーがビジネスを阻害するという誤解
- セキュリティの名の下の広範囲な監視 (pervasive surveillance)
- 新しい法制が保護主義の新たなツールとして使われる危険性
- 負の外部性と倫理的振る舞いの必要性
これらに関して、詳しくお話する時間はありませんが、プライバシーとセキュリティそれぞれに関するOECD原則の重要性を強調しておきたいと思います。
ビジネスサイドからすると、制約的にみえるかもしれません。しかし、人々にとってより安全かつ信頼できる環境というのは、よりよいビジネス環境でもあるのです。
また、社会参加者へ倫理的行動を即することはとても重要です。たとえば、より良い利用者認証と、パーソナル・データのよりきめ細やかな提供技術は最低でも10年以上前から存在しています。しかし、こうした技術が幅広く使われているかというと、そうではありません。これは、こうした技術を実装しないことによるコストが、サービス側ではなく個人の側の負担になっているからです。ちょうど、公害のようなものです。倫理的行動のより強力な推進と、コストの内部化を進める政策が必要とされています。
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