デジタルアイデンティティ:世界の最新動向 –10月29日・11月5日合併版

10月29日、11月5日と、IIW, IETFの関連でお休みしていたので、まとめてお届けします。

アルゼンチン・ブエノスアイレス:世界初の政府主導ブロックチェーンIDを導入

ブエノスアイレス市が、市民360万人を対象とした画期的な取り組みを開始しました。政府主導のブロックチェーンベースのデジタルID「QuarkID」の導入です。

このシステムの特徴は以下の通りです:

  • ZKsyncが提供するEraレイヤー2ブロックチェーン上でゼロ知識証明を活用
  • 市の公式デジタルプラットフォーム「MiBa」と連携し、各種行政サービスや文書へのアクセスが可能
  • 市民が自身の個人情報をより安全にコントロールできる仕組み

MiBaユーザーは全員、分散型デジタルID(DID)を取得。出生証明書や納税記録といった重要書類を、セキュアに管理・共有できるようになりました。市当局は、これを個人情報管理における大きな転換点と位置付けています。

(参考)

イギリス:デジタル本人確認サービスの法整備へ

一方イギリスでは、2023年10月23日、上院にデータ(利用・アクセス)法案が提出されました。この法案には、デジタル本人確認サービスを法的に支える以下の重要な施策が含まれています:

  • 経済活動全般における「適切な」デジタル本人確認サービスのルール作り
  • 基準を満たすサービスの公的登録制度の創設
  • 信頼できるサービスを簡単に識別できる認証マークの発行
  • 公的機関のデータを本人確認や資格確認に活用できる新しい情報連携の基盤整備

また、この発表は新規に設立された政府部門 Office of Digital Identity and Attribute (OfDIA)として行われています。

(参考)https://www.gov.uk/government/news/new-data-laws-unveiled-to-improve-public-services-and-boost-uk-economy-by-10-billion

ポーランド:急速に普及するポーランドのデジタル身分証明書

ポーランド政府の発表によると、従来の物理的な身分証明書に代わるデジタルID「mDowód(エムドヴード)」の利用者が800万人を超えました。

このデジタルIDの特徴は以下の通りです:

  • 銀行や公証人での本人確認など、従来の身分証明書と同様の用途で使用可能
  • デジタル担当副大臣のダリウシュ・スタンデルスキ氏が、従来の身分証明書と同等の法的効力を持つことを確認
  • 独自の識別番号を付与

ただし、以下の場合には従来の紙またはプラスチック製の身分証明書が必要です:

  • 新しい身分証明書の申請時
  • 国境を越える際の本人確認

mDowódには、セキュリティ対策として以下の機能が搭載されています:

  • ポーランド国旗のアニメーション表示
  • リアルタイムの時計表示
  • インターネット接続なしでも利用可能
  • mObywatel(公式モバイルアプリ)内のQRコードによる情報認証

このように、ポーランドではデジタル化による行政サービスの利便性向上が着実に進んでいます。セキュリティと使いやすさを両立した同国の取り組みは、今後のデジタルID普及における重要な事例となりそうです。

(参考)https://www.thinkdigitalpartners.com/news/2024/11/04/digital-identity-global-roundup-190/

米国:分散型ID基盤のパイオニア「Sovrin」、2025年3月までに終了へ

分散型デジタルID(SSI)の先駆者であるSovrin Foundationが、2025年3月31日(もしくはそれ以前)にプラットフォームを終了する方針を発表しました。

Sovrinは

  • 2017年の立ち上げ以来、分散型IDの基準作りをリード
  • W3Cが採用した分散型識別子(DID)や検証可能な資格情報の概念を確立
  • 政府や企業に依存しない、個人主体のID管理を実現
  • 世界中の信頼できる組織が「管理者(steward)」として運営に参加

というように、分散型IDの世界に大きく貢献してきましたが、時の流れと市場の現実に抗えなかったようです。終了の主な理由として、

  1. メインネットの利用減少
  2. 分散型IDに関する規制の不透明さ
  3. 技術的課題への対応による資源の枯渇
  4. 管理者コミュニティの参加低下

といったことを挙げています

7年間にわたり分散型IDの発展に貢献してきたSovrinの終了は、この分野における一つの時代の区切りを示すものといえそうです。

(参考)https://idtechwire.com/the-community-moved-on-sovrin-announces-mainnets-likely-shutdown/

イタリア:デジタルIDウォレットの導入を開始〜2025年の本格運用に向けて試験運用がスタート

イタリア政府は、国内初となるデジタルID制度のパイロットプログラムを開始しました。内務省が提供する公式アプリ「Io」を通じて、10月23日にまずは5万人の市民を対象に、運転免許証、健康保険証、欧州障害者カードのデジタル版が利用可能になります。ロールアウトのスケジュールは以下のようになっています。

  • 10月23日- 50,000人
  • 11月6日 – 250,000人
  • 11月30日 – 1,000,000人
  • 12月4日 – 全てのIO appユーザー

現段階では、これらのデジタル証明書はオンラインサービスやセルフサービスシステムでは使用できないものの、日常生活における本人確認手段として、従来の物理的な身分証明書と同様に使うことができます。

この取り組みは、2025年までに予定されている「ITウォレット」の本格導入に向けた重要なステップとして位置づけられています。イタリアはこの施策を通じて、EUのデジタルID基準(eIDAS規則)に準拠したシステムを構築し、行政サービスのデジタル化を推進していく方針です。

パイロットプログラムのロールアウトは以下のような形で進めていくことになっています。

パイロットプログラムの成果を踏まえ、イタリアは段階的にデジタルID機能の拡充を進め、より便利で安全な行政サービスの実現を目指しています。

(参考)https://innovazione.gov.it/notizie/articoli/it-wallet-tre-documenti-digitali-su-app-io-per-i-primi-50-000-cittadini/

https://www.thinkdigitalpartners.com/news/2024/11/04/digital-identity-global-roundup-190


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