さだまさし「小夜曲」とレハール「メリー・ウィドウ:唇は語らずとも」

ポピュラー音楽には、クラシック音楽の引用じゃないかと思うくらい似ているものがままありますね。さだまさしの「小夜曲」もそのひとつで、聞いた瞬間に「うぁ、メリー・ウィドウだ!」とぶっとみました。よく見ると、作曲は服部克久さんなんですね。もちろんご存じないわけないので、オマージュとして使われていると思います。

まぁ、聞いてみてください。

「小夜曲」

作詩:さだまさし
作曲:服部克久

 

「メリー・ウィドウ:唇は黙っていても (Lippen Schweigen)」

作詞:レオ・スタイン&ヴィクター・レオン
作曲:レハール

メリー・ウィドウ好きなんですよねぇ、わたし。「パリ・オペラ座のメリー・ウィドウ/Palais Garnier: DIE LUSTIGE WITWE」というタイトルで別記事も書いておりますので、ぜひ御覧ください。その中での終盤のクライマックスがこの「唇は語らずとも」なんですよね。

Lippen schweigen, ‘s flüstern Geigen,
Hab’ mich lieb!
All’ das Bangen, all’ das Sehnen,
Was wir sagen, sagt das eine Blick allein.
Lippen schweigen, Geigen sagen:
Hab’ mich lieb!
Mit den Augen sagen wir uns so viel.
Mit den Augen sagen wir uns:
Hab’ mich lieb!
唇は語らずとも、ヴァイオリンがささやく
「私を愛して」と──
すべての不安も、すべての憧れも、
たったひとつの視線が語っている
唇は沈黙している、けれどもヴァイオリンが告げる
「私を愛して」と──
目と目が交わすすべての想いを
目と目がこう伝えているのです
「私を愛して」と──

さだまさしの「小夜曲」も言葉なく愛を囁く曲ですから、引用するのにぴったりとも言えます。

唇は語らずとも──レハール《メリー・ウィドウ》の甘美なるワルツ

レハールの代表作《メリー・ウィドウ(Die lustige Witwe)》は、20世紀初頭のウィーンで大旋風を巻き起こしたオペレッタです。その中でもとりわけ人々を魅了し続けてきたのが、終盤に登場するデュエット「Lippen schweigen(唇は語らずとも)」です。

◆ 愛の頂点で響くメロディ

この曲は、第3幕のクライマックス。主人公ハンナとダニロが、すれ違いと駆け引きを重ねた末に、ついに想いを通わせる場面で歌われます。「唇は語らずとも、心が語る」と歌われるこのデュエットは、ワルツの優雅な旋律に乗せて、言葉では表せない愛の高まりを表現します。

「唇は沈黙しているけれど、愛は目を通じて語られている」──まさにオペレッタにおける“ロマンティック・フィナーレ”の典型といえる瞬間です。

◆ 音楽的魅力:ウィーンの香り漂うワルツ

このデュエットの魅力は、何と言ってもその流麗なワルツにあります。三拍子の揺れ動くリズムが、恋する二人の心の高鳴りをそのまま音楽にしたかのよう。メロディは非常に覚えやすく、観客を自然と旋律に引き込んでいきます。

また、二人の歌声が重なり合う瞬間の美しさも格別で、まるでダンスフロアで心と体が一体となって踊るような感覚を覚えます。

◆ 言葉と沈黙の間に宿る感情

また、「Lippen schweigen」というタイトル自体が象徴的です。恋の告白には、必ずしも言葉はいらない。沈黙のなかにも想いは宿る。これは、音楽そのものが感情を語ることができる、というオペレッタの本質を見事に体現しています。

結びに

《メリー・ウィドウ》の「Lippen schweigen」は、単なる愛のデュエットではありません。それは、沈黙の中にこそ宿る深い感情、そして音楽そのものが語る愛の物語です。

もしまだ聴いたことがないという方がいれば、ぜひ一度、名演のひとつに耳を傾けてみてください。きっとその美しさに、心を奪われることでしょう。

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