静溢のパヴァーヌ 

Mie Saito〜斉藤美絵マリンバリサイタル – ガリアからの風〜
パヴァーヌはグールドのようだった。柔らかいマレットのロールをしない音が、クリスマス前の木造の教会の空間に、ぽつりぽつりと溶けて消えて行き、透明な時が残った。

12月20日に阿佐ヶ谷の聖パウロ教会で開かれた、斉藤美絵のマリンバリサイタル – ガリアからの風 – は、マリンバの弱音の温もりを存分に聞かせてくれた。とかく、マリンバは木琴と言うことで、Xylophone 的なかちゃかちゃとした堅い音でころころ弾くというイメージが強いが、斉藤美絵のマリンバは、それとは対局にある精妙さと柔らかさを全面に出している。

これは、コンサートの第1曲目からはっきりしていたが、特に「はっと」思わされたのは、前半の最後に当たるラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」だった。ラヴェル自身によりオーケストラ用に編曲されており、実際にオーケストラの表情豊かな音色で演奏されることが多いこの曲は、横谷基(よこや・もとい)の編曲と斉藤美絵の演奏にかかると、対照的にストイックな、それゆえに原曲の抑制された悲しみが、音と音の隙間からこぼれ落ちるものになる。ロールを使わず、細心の注意を払って紡ぎ出された木の音が、空間に消えて行くのを聞かせる演奏は、グールド晩年のゴールドベルグ変奏曲のアリアを思い出させる。

こうなってくると、休憩の後のバッハは、いやが上にも期待が高まる。ここでも精妙な演奏を斉藤は聞かせてくれたが、音の柔らかさにこだわるあまりか、シャコンヌではやや厳しさが足りず、もう一つ食い足りない印象が残った。しかし、このストイックさは、最後のコラールでは再びいかんなくその効果を発揮し、私を透明な空間にいざなってくれた。

日頃の喧噪に心が麻痺していたのを、あっというまに洗い清められたような宵であった。

ペルーでは、日本大使館に、まだ380名の人質が残されていた。彼らに、この音色を届けてあげたかった。

(崎村 夏彦)

斉藤美絵
マリンバリサイタル
〜ガリアからの風〜

1996年12月20日
聖パウロ教会
(東京:阿佐ヶ谷)
NOEL
Dision nau a pleine teste (C.Sermisy 1490-1562)
Dieus soit en cheste maison (A de la Halle 1240-1287)

Children\’s Corner – Petite suite pour piano seul (C. Debusy 1862-1918)

Pavane pour une Infante Defunte (M. Ravel 1875-1937)

*** intermission ***

Praludium unt Fuge No.21 B-dur ~ Das Wohltemperierte Clavier ~

Ciaccona d-moll BWV 1004 ~Partita II fur Violino solo~

Choral Nr.33 ~ Ich will dich mit Fleiss bewahren
from Weihnachts Oratorium

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