米国社会保障番号(SSN)の民間利用制限なしという神話

しかし、米国社会保障番号(Social Security Number, SSN) の民間利用には制限がないという神話、どこから出てきたんでしょうね?日本の有識者の本にもそのような言及があったりして、どうも考えものだなぁと。一時期制限が少なかったので、そのころの印象が独り歩きしてるんでしょうかね?

SSNの歴史

SSNの歴史は、なんといってもその発行者であるSocial Security Administration (SSA) の文書が確かでしょう。SSAによる Social Security Number Policy Chronology  [0]がそれです。これによると、そのルーツは1935年の社会保障法(The Social Security Act P.L. 74-271) にさかのぼります。この時は「番号」に対する言及は無かったのですが、記録管理体系の作成を許可しました。番号が出てくるのは翌年で、Treasury Decision 4704 によって、社会保障プログラムでカバーされるすべての従業員に対して口座番号を割り当てることが要求されました。この結果、1936年11月から1937年6月30日までのあいだに、約3000万人にSSNが割り当てられました。さらに、1943年には、Executive Order 9397 によって、連邦機関は、個人を識別する体系を作る際には、SSNを使うことになりました。

一方、税に関する番号は1961年に出てきます。Internal Revenue Code Amendments によって、確定申告時に納税者番号を記入することが要求されるようになり、翌年、内国歳入庁は、SSNを納税者番号として採用することを決めます。

さらに、1970年には、Bank Records and Foreign Transactions Act (銀行記録及び国外取引法)によって、銀行、貯蓄およびローン組合、信用金庫、証券会社が全顧客に関してSSNを取得することが義務付け荒れました。同時に、金融機関は内国歳入庁にたいして顧客のSSNを含めた報告を、US$10,000以上の全取引について提出する義務を課しました。

そして、1972年にはSocial Security Amendments of 1972 によって、合法的な外国人居住者および連邦政府から資金を受け取る全ての人に対してSSNが配られることになり、また、子供が最初に学校に登録するときにSSNが発行されるようになりました。

こうして順調に広がってきたように見えるSSNですが、1974年に制定され、1975年9月27日に施行されたPrivacy Act によって、政府機関によるSSNの利用に制限がかかるようになりました。具体的には、

  • いかなる政府もSSNの提示を受けられないということを理由にして給付金支払いを拒否してはいけない
  • 政府機関はSSNを訊ねるときには、それが強制なのか任意なのかを明示する

というものでした。(ちなみに、これが、地方政府のSSN利用に言及した最初の事例になります。)

さらに、1976年には不法なSSNの開示ないし要求を重罪と定義します。

面白いのは1978年で、やっとこの年になってからSSNの申請に、年齢、国籍、およびその他の個人情報の確認が必要になりました。

そして、ついに1987年8月17日、ニューメキシコにおいて、新生児に対してSSNを割り当てる実験が始まります。その後これは広がり、現在は全50州およびニューヨーク市、ワシントンDC、プエルトリコにおいて行われています。

その後も徐々に利用が広がって行き、1990年には、1歳以上の扶養家族のSSNを確定申告の扶養家族申請に記入することになりました。

SSNの利用制限

こうやって、便利便利とばかりにSSNの利用は広がってゆくのですが、このトレンドに転機が訪れたのは1998ごろと思われます。Identity Theft and Assumption Deterrence Act of 1998 が制定されたことからも、これが問題化し始めていたのがわかります。以後、利用制限が進んでゆきます。そして、2007年にはついに必要ないSSN利用を連邦政府はできるだけ減らすことを決断し、各省庁にその計画を立てさせます。(例:国防総省社会保障番号削減計画 [3] )

これと並行して、民間に対しても制限する法律が出てきます。これは、連邦レベルではなく、地域レベルでおきました。いくつかサンプルを上げます。

アリゾナ州(2005) [1]

  • SSNの公衆への開示の禁止
  • 政府および民間の身分証明書への印字の禁止
  • オンラインでのSSN送信に関する技術的規制
  • アリゾナ州居住者に対しての郵送物へのSSN印字の禁止
  • SSN利用を継続する企業は、消費者に対して毎年どのようにSSNを使ったかを開示すると同時に、消費者がオプトアウトできるようにしなければならない。
カリフォルニア州(2001, 2003) [1]
  • SSNの請求書等への印字禁止
  • 商品やサービスの購入時に必要となる書類や身分証明書へのSSNの印字の禁止
  • SSNや個人情報を持つ企業で、それらの漏洩が起きた時には、当該個人に連絡を取ること

コロラド州(2004) [1]

  • 州によるSSNの収集の禁止
  • 身分証明書へのSSNの記載の禁止

ニューヨーク州(2008) [2]

  • SSNから導出された任意の「番号」が対象
  • 意図的に「番号」を公開することを禁止
  • サービスを受けたり、場所に入場したりするためのカードへの「番号」やその一部の収録の禁止
  • 「番号」の認証利用の禁止
  • 「番号」保有機関は、従業員の「番号」へのアクセスを最小限にすること。

他もありますが、めっちゃ眠いのでこのくらいでやめておきます。すでに広く使われちゃっているし、米国は民間に対する規制は非常に難しい国なので、一気に禁止はできないですから、間接的に対策している感じですね。身分証明書への記載を禁止して、利用報告とオプトアウトを義務付ければかなり制限できます。

全体的に言うと、SSNに関しては、アメリカの流れはこんな感じだったと思っています。

  • 社会保障をちゃんとやるためには、口座管理をきっちりしないとね。
  • そのためには口座番号を作らないと。
  • しっかり税金を取り、給付を絞るのには番号は使えるね。
  • やった、不正(扶養家族の二重申請など)が激減!
  • (用途拡大)
  • (インターネットの出現)
  • イカン。ID詐欺が蔓延だ…。
  • SSN利用をとにかく減らせ!(←今ココ)[4]

なんとなくの感想ですが、「紙」の時代はうまく回っていたのが、インターネットの出現以降は犯罪の温床になってしまったような。

という訳で、米国におけるSSNの規制についてでした。

(参考文献)

[0] Social Security Number Policy Chronology, http://www.ssa.gov/history/ssn/ssnchron.html

[1] epic.org, “Social Security Numbers”, http://epic.org/privacy/ssn/

[2] Joens Day, “New York Enacts Social Security Number Protection Law”, 2006, http://www.jonesday.com/newsknowledge/publicationdetail.aspx?publication=3778

[3] 国防総省, “社会保障番号削減計画“, http://www.dtic.mil/whs/directives/corres/pdf/DTM-07-015.pdf

[4] ちなみに、韓国も同じ構図。現在、住民登録番号利用の削減に取り組んでいる。韓国の個人情報保護法など参照のこと。

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