血液型の隠された法則
はじめにこの記事は、集団遺伝学における「ハーディー・ワインバーグの法則」を、ABO血液型を例にして示そうというものです。元ネタは、中学数学部の元講師、藤木先生の「理科の数学的記述」からまるまるいただいています。本来は、メンデルの法則や遺伝子の話を詳しく行った上で、この授業をすべきでしょうが、そうすると時間があまりにもかかりすぎます。そこで、20分程度の時間でできる余談として、コンパクトにまとめてみました。
なかなか面白い話題だと思うけど、皆さんはどう思うでしょうか。
私の授業風景(改良版)「さて、皆さんはこの授業で、血液型の人の割合を用いた、確率の問題をすでに解いていますよね。しかし、そこではお話しなかったことがあります。「遺伝」の話です。
「遺伝」とは、要するに親のもっている性質が子供にどのように現れるか、ということです。血液型の例でいえば、親の血液型が何かによって、子供の血液型がどのように決まるのか、ということです。
詳しい話をすると時間がかかるので、ここでは簡単にその仕組みを説明しますね。ABO血液型では、A,B,O,ABの四種類の血液型があります。しかし、実はA型の人のなかには、2種類の人がいます。AAという人と、AOという人です。B型も同様です。さらにO型とAB型を付け加えると、以下のようになります。
A型: AA,AO
B型: BB,BO
O型: OO
AB型: ABここで、AとかOとか書いたのは、遺伝子とよばれるものです。一人の人あたり、必ず2つの遺伝子をもっていることがわかっています。この遺伝子の組み合わせによって、血液型が決まっているんですね。さて、親から子供に、この遺伝子はどのように伝わるのでしょう。例として、AOの父親と、BOの母親から生れる子供を考えてみましょう。この場合、子供は両親の二つの遺伝子のうち、一つずつをもらいます。ですから、生れてくる子供は、AO、AB,BO,OOの四種類があり得ます。よってその子供は、A型、B型、AB型、O型がそれぞれ確率1/4で生れてくるのです。
この血液型の遺伝では、例えばともにO型の両親からは、O型の子供しか生れませんよね。ですから、例えば生き別れた子供が、親を探していて、どうもそれらしい人にあったが決定打がないときには、血液検査をしてみるわけです。ABO血液型のほかにも、数十種類の血液型があるので、それらを全て調べれば、かなりの確率で親かどうかを判定できます。
さて、以前日本人の血液型の割合がでてきましたが、この割合の中に法則が含まれていることを知っているでしょうか?この法則とは「ハーディーワインバーグの法則」と呼ばれていて、以下の条件が満たされるときに成り立つことが知られています。条件とは、
集団の数が大きい(日本の人口くらいなら大丈夫)
人口の流出や流入が少ない(日本のような島国ではよく成り立つ)
この遺伝子によって、生存確率が変化しない(血液型の場合、よく成り立つ)
この遺伝子型に無関係に結婚が成立する(要するに相手の血液型によって結婚をきめるようなことがない)です。日本のABO血液型の場合は、これらをよく満たします。これらの条件が成り立つ場合には、以下のような考え方をしてかまいません。
まず、ある世代の親が子供の与える遺伝子を、一つのプールに一度ためます。子供は、このプールの中から遺伝子を勝手に二つ選びます。それによって、子供の世代の血液型の分布がわかるのです。
このプールのなかには、A遺伝子、B遺伝子、O遺伝子がそれぞれA,B,Oの割合で存在しているとします。当然、A+B+O=1です。ここから、二つの遺伝子を取り出して、例えばO型となる確率を計算してみましょう。これは、独立事象の積法則より、O×O=O^2(^2は二乗を表す)となります。同様にAB型は、A×B、、、としたいけど、よく考えると、一個目がA,二個目がBである確率がA×Bで、逆に一個目がBで、二個目がAである確率もA×Bなので、合計2ABです。以下同様に、A型となる確率はA^2+2AO、B型になる確率はB^2+2BOとなります。
ここでチェックをしてみましょう。これらのA型、B型、O型、AB型の割合を全て足したら1のはずですよね。実際にやってみると、
O^2+2AB+A^2+2AO+B^2+2BO
なのですが、、、これは以前に見たことない?そうそう、二乗の公式そのもので、
=(O+A+B)^2=1^2=1
なんですね。途中でA+B+O=1を使っています。うまくいってるでしょ?(ここで、「おー」という声があがる。いい感じだぞ、、、)これで驚いてはいけません。いよいよこれからが本番です。日本の血液型の割合の詳しい値は、みんなに配った資料に与えられています。
A型 38.2%
O型 30.5%
B型 21.9%
AB型 9.4%さてここで、先ほどA,B,Oで書き表した、それぞれの血液型の割合を書いてみましょう。
A型 38.2% A^2+2AO
O型 30.5% O^2
B型 21.9% B^2+2BO
AB型 9.4% 2ABこの表をよく見てください。実際にデータは4つあるのに、最後の列の式では文字が3つしかないでしょ?ということは、このデータの一部をつかってA,B,Oを決めておけば、そのほかのデータを予言できるのです!実際にやってみよう、、、といいたいけど、電卓を持ってくるのをわすれてしまって、誰かもってない?ない?うーん、しょうがないダッシュして借りてこよう。・・・はあ、疲れた。では、やってみよう。(先生少し休みなよ、という声があがる。やさしいやつらだなあ。)
まず一番てっとりばやいのが、O型のところだね。O^2=0.305だから、電卓をたたくとO=0.552となる。次にいいのは、A型とO型の足し算です。A^2+2AO+O^2=(A+O)^2=0.687だからA+O=0.829です。さっきのOの値を使って、A=0.277ですね。あとBは、A+B+O=1だから、B=1−A−O=0.171です。これで全部決まった。あとはうまくいっているかどうかやってみよう。B型の割合は、B^2+2BOで計算できる。やってみると、、、、B^2+2BO=(0.171)^2+2×0.171×0.552=0.029+0.189=0.218となる。おお、わずかに0.1%違っているだけだね。最後にAB型、やってみると、、、2AB=0.095となる。おおお、これもあってる。(生徒は、拍手喝さい。こんなの久しぶりだなあ。)
上での議論でははっきり言わなかったけど、ハーディー・ワインバーグの法則とは、血液型の割合が親の世代と子の世代で変化しないこと、さらにその割合が安定的であることなども保証します。
というわけで、実は血液型の割合の背後には、法則が横たわっているわけです。その法則は、確率の積法則などの確率計算が基礎になっているわけですね。確率は、実際のデータを説明する、大きな武器となるわけです。」
おわりに(先生向け)実際にやってみると、このネタは巧妙にできていることがわかります。遺伝の話、積法則の復習、二乗の定理の再現、データの予言など、山場の連続です。現状では、完璧に近いネタだと思う。中学部の上クラスや、高校部の確率の授業で、独立事象の積法則の後に使うと効果的でしょう。
本当は遺伝の話をくわしくしようと思って、メンデルの話なども用意したけど、そこまでいくと数学の授業にならないので、これくらいでちょうど良かったと思う。
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というわけで、一件落着(?)