お金を刷って、景気を良くしよう

お金を刷って景気を良くしようということをいうと、直ぐにハイパーインフレを起こす気か?とか、気違い沙汰だといわれますが、わたしはそうは思っていません。私はケインジアンではなく、したがって関西学院大学大学院教授の丹羽春喜教授とやや見方は異なりますが、非常に参考になると思うので、まずは、、「諸君!1998年5月号」の丹羽春喜教授の記事「カネが無ければ刷りなさい」を復習してみましょう。

「景気振興のための金は印刷機からくる」という主張は、別に新しいものではなく、たとえば、ラーナーの「雇用の経済学」の第一章にも、「景気振興のための政府支出のためのカネは、どこからくるのか?それは印刷機からくるべきなのだ!(中略)租税や国債からくるのではない。租税や国債は、ただ総支出(総需要)を調節するための手段でしかないのだ。」と書いてあったはずである。今の経済状況への処方箋としては、「政府紙幣」を発行し、それを財源に大規模な財政出動を行え、というのがケインズ経済学のもっとも基本的な教えであり、いま選択可能な有効な政策はこれしかない。

日銀券のほかに新たに紙幣をするのは、まるで「贋金」づくりではないかというイメージを持つ人もいるだろうが、貨幣経済においては、すべての貨幣は本質的には信用を付加された物に過ぎない。第一、硬貨は日銀が発行したものではなく、政府が発行した「政府通貨」である。

大量の政府紙幣の発行がハイパーインフレを引き起こさない理由は、この政府紙幣が経済全体の生産能力の余力=デフレ・ギャップをその信用の裏打ち(財源)として持っているからである。現在日本では、高度成長時代の末期に比べ、企業の資本設備は約6倍半になっているのに、GDPは2倍半、鉱工業生産も二倍程度にしかなっておらずかなりの資本設備が遊休している。また労働力も同じで、失業率の上昇だけでなく、残業時間の短縮、社内失業なども含めると、かなりの労働力が遊休状態にあるといえる。このデフレ・ギャップは、控えめに見てもGDPベースで30〜40%にも上る。つまり、年間200〜300兆円という巨額の潜在的なGDPが実現されないままむなしく失われているのだ。デフレギャップが生じている間は、ディマンド・プルのインフレは起きない。おきるとすれば、コストプッシュインフレだが、現在そのような兆候は世界的に見られない。したがって、デフレ・ギャップの範囲内での政府紙幣発行はインフレを引きおこさない。

歴史的に見ると、「政府紙幣」の発行は、日本でも実行され、国家財政と国民経済を救った例がある。それは明治維新のとき、由利公正の献策で行われた「太上官札」(後の民部省札)の発行である。維新当時の日本はデフレギャップが生じた状態だった。そこで、「政府紙幣」を発行し、近代化のための政府支出もどんどん行い、富国強兵に成功した。しかも、その間(明治10年まで)インフレは起きなかったことは注目に値する。ちなみに、政府紙幣発行に反対する論者は、西南戦争後のインフレ処理のため、松方デフレが必要だった出はないかと指摘するのが常だが、実際にはそれ以前の大隈重信蔵相の時代にすでにインフレが収まっていたころから、松方デフレは不必要だったことがわかる。

もう一つの類似例はいわゆる「高橋財政」である。新規発行国債を日銀に直接引き受けさせ、それで得た資金で大々的に内需拡大政策を行ったのである。(これは、政府紙幣発行ではありませんが、良く似た政策である。)

政府紙幣の発行には更にメリットがある。それは、「クラウディング・アウト効果」や「マンデル・フレミング効果」を引き起こさないことである。これらの効果は、日銀が国債を直接引き受ける形式や、市中消化された国債を日銀が買い取って代金を提供する「買いオペ」でも防ぐことができるが、政府紙幣ならばそもそもその心配が無い。

また、国債を発行してそれを民間に交わせた場合には、政府はいつかはかならず利息の支払いや元本の返済をおこなわなければならないが、政府紙幣は返済する必要も無ければ利息の支払いも無い。まさに、年間300兆円のデフレギャップをバックにつけた政府紙幣の発行は打ち出の小槌なのである。

次に、打ち出の小槌の使い方だが、日本ではまだまだ不十分な社会資本、社会保障などに支出することも考えられるが、今その計画を練っている暇はないし、その計画が効率的である保証も無い。ここは一つオーソドックスに市場に任せる、すなわち、国民一人一人に40万円をLump Sumで渡すのが良いだろう。こうすれば、多少の市場の失敗はおきるとしても、恣意的な計画よりははるかにミスマッチが少なくなる。40万円の根拠は、乗数効果を2.5倍程度とすると、その拡大効果は100兆円で、デフレギャップの中に十分におさまるからである。この経済拡大により、政府収入は飛躍的に増え、国家財政はゆうゆう黒字化する。

丹羽教授の議論はだいたい以上のようなものです。さらに、円高を防ぐ方法についても書いてあります。これも結構おもしろいので、そのうち要約しましょう。

わたしは、これ以外にマネーの不足もおきているのではないかと思うのですが、いま統計資料を集めている時間がありません。とりあえずそれは置いておくとして、丹羽教授の議論だけでも政府紙幣を発行する理由としては十分だと思います。おそらく、現行法の下では実行不能なのだと思うのですが、それならそうで、さっさと法律改正して、実行しないと、本当に大恐慌になってしまいますよ!

1998.9.7 (崎村夏彦)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください