デジタルIDの進化:OpenID4VPの重要な仕様変更

重要なポイント

  • OpenID for Verifiable Presentations仕様から「Presentation Exchange」が削除されました
  • 代わりに「Digital Credential Query Language (DCQL)」が唯一のクエリ言語となりました
  • この変更はデジタルIDの世界での重要な転換点です

静かな革命:デジタルIDにおける重要な変更

2025年4月、デジタルID技術の世界で大きな転換点が静かに訪れました。OpenID for Verifiable Presentations(OpenID4VP)の仕様から「Presentation Exchange」が削除され、「Digital Credential Query Language(DCQL)」だけが残されることになったのです。この変更は特に大々的に発表されたわけではありませんが、デジタルIDとVerifiable Credential(VC, 検証可能な資格証明)の分野にとって非常に重要な進展です。

Presentation Exchangeとは何だったのか?

Presentation Exchange(PE)は、VCを照会するための最初のクエリ言語でした。スイスアーミーナイフのように多機能で野心的な仕様であり、複数の証明書に対する複雑な照会を可能にすることを目指していました。

具体的には以下のようなことができました:

  • JSON形式で表現された証明書に対する汎用クエリ言語として機能
  • 証明書の内容だけでなく、アルゴリズムやフォーマットなどの属性も照会可能
  • 「これを2つ、あれを3つ、そしてX、Y、Zのフォーマットのいずれか」といった複雑な条件設定が可能

しかし、この複雑さが問題でもありました。「シンプルなことをシンプルに保つ」という原則に反していたのです。

なぜ変更が必要だったのか?

この変更は一夜にして行われたわけではありません。Michael Jones氏をはじめとする多くの専門家が数年にわたりPresentation Exchangeに代わる新しい仕様の必要性を訴えてきました。

PEの問題点は以下のようなものでした:

  • 複雑すぎる仕様: PEはあまりにも多くの機能を持ちすぎており、多くの実装では一部の機能しか使われていませんでした
  • 相互運用性の問題: 実装が部分的になりがちで、システム間の連携が難しかった
  • 実装者からのネガティブなフィードバック: 複雑さが増すにつれ、実装者からの批判が高まっていった

これに対して、新しいDCQLは目的に特化して設計されたクエリ言語です。必要なすべての機能は実際の現実世界のユースケースに基づいています。皆が希望するほどシンプルではないかもしれませんが、仮説的ではなく実際のニーズに応える設計となっています。

新しいDCQLとは?

Digital Credential Query Language(DCQL)は、特定の目的のために設計されたクエリ言語です。PEの複雑さを解消し、実際のユースケースに基づいた機能を提供します。

DCQLの特徴:

  • よりシンプルで理解しやすい設計
  • 実際の使用例に基づいた機能のみを含む
  • OpenID4VPプロトコルに特化した設計

DCQLの開発はDaniel Fett氏を中心に、Oliver Terbu氏、Tobias Looker氏、Michael Jones氏など多くの専門家の協力によって進められました。Internet Identity Workshopでの議論やIDUnionハッカソンでの検討も大きく貢献しています。

変更の経緯

この変更には2年近くの時間がかかっています。具体的には以下のような流れになっています。

  • 2023年8月:
    • OAuth Security Workshopで「Presentation Exchangeは何をするのか、そして実際に必要な部分は何か?」というテーマでの議論が始まる
  • 2023年10月
    • Internet Identity Workshopで同様の議論が継続され、PEの置き換えの必要性に関する認識と合意形成が進む
  • 2023年10月
    • OpenID4VPにDCQLが追加され、一時的に両方のクエリ言語がサポートされる状態に
  • 2024年
    • IDUnionハッカソンでの議論を通じて、DCQLがさらに改良される
  • 2025年4月4日(日本時間4月5日)
    • 最終的にPresentation Exchangeが削除され、DCQLが唯一のクエリ言語となる

歴史的な転換点

この変更は、OpenID4VPが最終仕様になる前に行われたことが重要です。OpenID4VPの仕様の変遷は以下のように追うことができます:

  1. PEのみをサポートしていた時期の仕様
  2. PEとDCQLの両方をサポートしていた時期の仕様
  3. 現在のDCQLのみをサポートする仕様

この変更は、GitHubのプルリクエストを通じて淡々と行われましたが、その影響は非常に大きいものです。

まとめ

Presentation Exchangeの開発者たちの功績は称えられるべきです。しかし、今回の変更はその経験の上に一歩踏み出すものです。その結果、デジタルIDの世界はより使いやすく、効率的な方向へと進化しています。この変更は、VCがどのように提示されるかという根本的な部分に影響を与える重要な転換点です。

テクノロジーの進化において、時に「複雑なものをシンプルにする」ことが最も難しい課題となります。OpenID4VPの今回の変更は、そうした挑戦の一例と言えるでしょう。デジタルIDの世界が、より多くの人々に理解され、広く採用されるためのステップとなることが期待されます。

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.