TEPPEN 2015のピアノ対決がヤラセというが…

全然知らなかったのだが、TEPPEN 2015というフジテレビの芸能番組で、芸能人のピアノ対決をやっていたらしい。その中でいまネットで話題に成っているのが HKT48 の森保まどか氏、AKB48 の松井咲子氏、芸人のさゆり氏、の3人。彼女たちがトップ3人なのだが、森保まどかが圧倒的なのに3位でヤラセなのではないかというのだ。

森保まどかは、PIARAピアノコンクール(って初耳だが。ピティナなら知ってる。)奨励賞などをとっている本格派。下のビデオ画像が自宅だとすると、マイピアノはベーゼンドルファーのようだ。(すげー)。

一方、松井咲子は東京音大のピアノ科の学生さん。プロの卵ですね。ビデオの中ではスタインウェイを引いています。学校のかな?自宅だったらこれまたすげー。

最後のさゆりはコメディアンだが、大阪音楽大学短期大学部ピアノ科中退と、いずれも専門的にピアノに取り組んでいる/いたこのとのある人達だ。

で、この結果だが、さゆり>松井>森保の順番になって、これに対して『内容の無い音楽会』の「生福」の福田裕彦氏他がネットで酷評している1、という構図だ。

まぁ、専門家である服部克久氏他が上記の順にし、一方これまた専門家である福田裕彦氏が逆だと言っているところに、素人のわたしなどが何か言うべきでは無いのかもしれないが、素人の特権で演奏についてちょっと考えてみたい。
まずは、それぞれの演奏を

森保まどか

松井咲子

さゆり

では、それぞれの、素人講評をば。

まず、タッチ、音の粒の揃い方は、これは森保の圧勝だろう。指がよく動いているし硬質な音は、どこかベーゼンドルファーチック。ヤマハじゃなくて、ベーゼンドルファーかファツィオリが、せめてスタインウェイあたりで弾かせて上げたかった感じ。こういうところがネット民には非常にうけたのだと思う。これに対して、松井は少しばらつくし、さゆりは更にばらつく。というか、さゆりは破綻しすぎ。わたしは多くの日本人聴衆と違って、多少ミスタッチがあっても音楽があれば良いと思っている口だが、それにしてもちょっとしすぎ。テクニックがおいついていない。この点で見れば、森保>松井>さゆりなのは間違いないだろう。

だが、音楽はそれだけではない。森保を聞いた後に松井を聴き始めた時、「あれ?音が違う。」と思った人は多いのではないだろうか。どちらもヤマハで、おそらく同じ人が調整しているにもかかわらず。松井のほうが音にぐっと膨らみが有り深みがある。そしてその中から、ふわっと旋律が浮き出してくる。何故か。これは、ピアノが平均律の楽器であるという弱点をきちんと補って弾こうとしているかどうか(殆どの場合演奏者はそれを意識するのではなく、音色で聞き分けているわけだが)にあると感じられる。前述のとおり、現代のピアノは平均律で調律されている。それ故に、音が濁る。この濁りは、和音の各音を同じ音量で演奏すると特に顕著に出る。プロの演奏家は、このデメリットを減らすために、各音の音量や音の出のバランスを変えながら弾く2。だから、同じピアノでも、本当のプロが弾くと澄んだ音が出て、そうでない人が弾くと濁った音が出るのだ。森保よりも松井の方が音に広がりと深みがあるのは、ここに起因している。森保は「音が揃っている」が故に、「平均律の濁り」が強く出てしまっているのだ。同様に、さゆりもまた、そこのところはケアして弾いている。つまり、音大での教育はそれなりの成果を出しているということかな。森保さんもあれだけテクニックがあるだから、ちょっと気をつけたらすぐ良くなるだろう。この観点で見ると、松井>さゆり>森保、だ。

次に曲と解釈。まず、異邦人。うーん、そういう曲じゃないんだけどなぁ。「子どもたちが空に向かい両手を広げ、鳥や雲や夢までもつかもうとしている」に始まるあの寂しさが出てこない…。年齢的には久保田早紀も19歳だったからそんなに変わらないんだけどなぁ…。今の子の方がおこちゃまなのかな…。伴奏にしても、ズルナ3もサントゥール4も聞こえない。一度、ひどく失恋して、アラブの街でも彷徨ってみると、きっと良くなるんだろうな、という感じ。技術的に言うと、歌の旋律のレガートをもっと気をつけて弾いて、フレージングをしっかりと、一音一音の音量を変えながら歌うよう(今のはあまりにピアノ的)に弾く。伴奏の音量は落とす。

久保田早紀さん本人の異邦人:(どうでもよいけど、こんな美人さんだったので。音でしか知らなかったので…。しかも同郷の国立市出身。)

一方のレリゴーだが、パーツパーツは良い。よく歌ってるし。だけど、曲をブツブツにしすぎですよ。編曲悪すぎ。持ち時間の関係なんだろうけど、これは音楽としてはやっちゃだめでしょう。

対して、残酷な天使のテーゼは曲をぶつ切りにしていないから、ちゃんとまとまっている。前奏部分(特に3音目まで)はすごく広がりもあって良い。直後の旋律も、松井ほどではないがちゃんと歌っている。あとは、気持ちで弾いてる感じ。終わりはちょっと取ってつけたような感じですね。腕力が足りない。

という訳で、「さゆり>松井」になるとすると、選曲点がかなりウェイトが高い場合だろう。それくらいしか考えられない。

「松井>森保」は、上述の通り、ピアノの扱い方と音楽の作り方。

でもなぁ…。

「対決」にするなら、やはりちゃんとしたクラシックの課題曲を決めてやったほうが良いと思うよ。たとえばさ、こんな感じ。

(同じく芸能人の)松下奈緒の 「Chopin バラード第3番変イ長調」5

そうすると「さゆり>松井」みたいなのは起きなくなるし、森保さんもちゃんと指導をうけたらきっと森保>松井になるような気がする。指が動くもん。

あと、フジテレビにもう一つ注文。録音、悪すぎ。もうちょっと何とかして。

では、最後におまけで、本当のピアニストの演奏。ツィーメルマンです。うまいわ~。プロは違うね。6

やはり、これが良いということで、お後がよろしいようで。

脚注

  1. ロケットニュース http://rocketnews24.com/2015/01/06/530471/
  2. 更に、音量のバランスを変えると、実はピッチも微妙に変わる。強く弾けば弦が端まできちんと振動するので低くなるし、軽く弾けば高くなる。
  3. アラブのダブルリード楽器。
  4. アラブの打弦楽器。これがシルクロードを西に下ってハンガリーのツィンバロンやドイツのハックブレット、英国のハンマー・ダルシマーに、東に下って中国の楊琴になった。
  5. ま、上記3人+松下奈緒だったら、松下奈緒が一番うまい感じですな。
  6. 同じ音量で聞いていると、出だしの音が小さい気がするかもしれないが、それはダイナミック・レンジが広くて、ピアニッシモはとても小さく、フォルティッシモはとても大きく弾いてるから。ダイナミック・レンジは広いし、音一つ一つにニュアンスを込めてるし、フレージングも素晴らしいし、音楽はこうでなくっちゃね。ちなみにこの演奏は、Youtubueにアップされていた、ホロヴィッツ、キーシン、他各種の演奏の中から筆者が厳選いたしましたです。ずーっとホロヴィッツで聞いてたんですがね、ツィーメルマン、いいわぁ。

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