Fly me to the moon 〜 八代亜紀「夜のアルバム」によせて

八代亜紀 / Aki Yashiro の新アルバム 夜のアルバム / Songs around Midnight が話題である。デビュー41年の演歌の女王がジャズを、というのと、世界75カ国で発売というのがインパクトなのだろう。twitter で流れてきたので、早速 iTunes で聞いてみたら予想外に良い[1]。と、思ったら、もともとは、小学校5年生の時にに聞いたのが Julie Londonを聞いて、クラブ歌手を志すようになったジャズ・シンガーなのだそうだ。なるほど。

この1曲めが、表題の「Fly me to the moon」。渋くダブルベースから始まるところは森川七月の&JAZZ の Lullaby of Birdland に近い感じで、とっても好みの始まり方だ[2]。でも、八代さんに影響を与えた Julie London 版とはだいぶ違う。

Fly me to the moon は、最初はワルツだった

Fly me to the moon は、Bart Howard によって1954年に書かれたポピュラー・ソングだ。もともとのタイトルは「In Other Words」で、「Fly me to the moon」のタイトルを最初に使ったのはJohnny Matis (1957) だった。これまでたくさんのバージョンが録音されてきた。八代がジャズを志すきっかけとなったJulie London のジャズ・ピチカートが特徴的なEarnie Freeman バージョンや、フランク・シナトラの It Might as Well Be Swing (1964) のバージョンはきっと皆さんもどこかで耳にされたことがあるだろう。このシナトラ版はQuincy Jones が編曲して、Count Basie が伴奏をしているという、なんとも贅沢なバージョンで、洒落ていてめちゃめちゃかっこいい。間奏部への入りなどまさにしびれる感じで、まだ聞いたことがないなら是非おすすめしたい。八代バージョン同様、両者とも四拍子だ。だが、この曲、驚いたことに最初はワルツとして書かれている。この曲の最初の録音が、Kaye Ballard の 1954年の録音だ。

非常に甘い、Julie London や Frank Sinatra 版の Cool さとはある意味対極にあるような曲だ。これはこれでとてもよい曲だとは思うが、現代ではこのようなワルツバージョンはほとんど演奏されないように思われる。では、どこで四拍子への変換がおきたのだろうか?

Quincy Jones

Quincy Jones
© Glenn Francis, www.PacificProDigital.com

そういう疑問を持った私は、YoutubeWikipedia を使って調べていってみた。Wikipediaによると、Sara Vaughan の 1962 年のバージョンで拍子変更が行われているとのことだ[3]。このアレンジを担当したのが Quincy Jones である。で、Frank Sinatra 版もやはり彼の編曲だ。そういう意味で、この曲が残っているのは彼の功績もかなり入っていると考えても良いだろう。

みなさん御存知の通り、Quincy Jones は1933年生まれのプロデューサー、作曲家、編曲家、トランペット奏者だ。アカデミー賞のBest Original Song を受賞した最初のアフリカ系アメリカ人であるだけでなく、マイケル・ジャクソンの「スリラー」や「We are the world」のプロデューサーでもあった。

このQuincy Jones、ずっとジャズ系との認識をしていたが、実は  Nadia Boulanger [4]と Olivier Messiaen [5]の元で作曲と理論を学んだ弟子でもある。ちょっとびっくりだ。やはり、独創性のためには基礎が大切ということですね。基礎がなければ、独創的にやったつもりでも結局二番煎じになりますからね。

というわけで、最後に Frank Sinatra 版をお聞きください。やっぱり、シナトラだよねぇ、Fly me to the moon は。

 

 おまけ

若い人の演奏だと、Halie Loren の Cotton Club Tokyo での演奏なんかもカワイイ。年齢と歌詞にすごくよくマッチしている。CDはもっとクールだけどね、カワイイ演奏もなかなか良い。日本人、なんでこういうふうに音楽にならないのかなぁ…。ジャズも、クラシックも。


[1] 予想が低かったというのもあるかもしれないが。日本人の歌手共通の、歌詞の発音が気になってしまうという欠点は引きずっている。あと、日本語歌詞は…うーん。バックと歌も分離し過ぎでジャズのライブ感が無いし、アレンジもいささか中途半端ですかねぇ。たとえば、Fly me to the moon の冒頭、ダブルベース一本で始まるところはすごくいいのに、そこにフィンガースナップを重ねて一気に安っぽくなっている…。

[2] いや、やっぱり &JAZZ の方が全然いいですけどね。圧倒的に渋い。ま、ライブも聴きに行ったし贔屓かもしれませんが…。

[3] さわりだけなら、amazon.com で聞くことができる。ただし、三拍子から離れたという意味では、Nancy Wilson (1959) や Nat King Cole (1961)が早い。ただし、甘さは従前どおり。Sarah Vaughan は、コペンハーゲンライブバージョンも好き。

[4] Nadia Boulanger は、フランスの作曲家、教師。Aaron CoplandJohn Eliot GardinerDinu LipattiIgor MarkevitchPhilip Glass, and Ástor Piazzolla. などはみんな彼女の弟子。

[5] Olivier Messiaen は20世紀を代表するフランスの大作曲家。トゥランガリラ交響曲などが有名。個人的には、Le Merle Noir (クロウタドリ)[パトリック・ガロワ演奏:スコア付き] などが好き。

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