規制を緩めよう、幸せになるために ~規制をゆるめるということの重要性 ~

「全知全能の善意の神はいない。その証明は簡単だ。この世の全ての不幸がその証明 だ。」

選好関係

ひとびとは、日々生活しています。その生活とは、可能な選択肢の中から、自分が最 も良いと考えるものを選択する積み重ねです。たとえば、今あなたはこの文書を読ん でいます。これは、他のどの行為よりも今の段階ではこの文書を読むことをあなたが 好み、それを選択した行為の結果です。あなたには、他のことをする選択肢もあった はずです。しかし、あなたはこの文を読むことを選びました。

合理的に行動するならば、あなたは自分が最も幸福になるようにと思ってこの「選択 」を繰り返して行くはずです。わたしたちは残念ながら将来を見通す能力はありませ んから、今、善かれと思った選択が、必ずしも将来的にも良かったとは限りませんが。

つまり、こういうことです。

あなたは、ある選択肢の集まりの中から(これを実行可能集合と呼ぶことにします) 、与えられた情報の下で、もっとも良いと思う選択肢を選びます。そして、その結果 としてある満足度、(これを効用水準ということにします)に到達するわけです。選 ぶ際の基準を選好関係といいます。選好関係は、通常社会の状態によって左右されます。

選択肢の数が減れば、それだけ到達しうる満足度は、減ります。もうすこし厳密に言 えば、選択肢の集合が小さくなった時に、到達しうる効用水準が高くなることはけし てありません。これは簡単なことです。ある選択肢の集合が、もう一つの選択肢の集 合の中に含まれていたとします。もし、小さいほうの選択肢の集合の中に最高点が含 まれているならば、その点は大きいほうにも含まれていますから、大きいほうの選択 肢の集合における最高の選択肢は、小さいほうの選択肢の集合における最高の選択肢 と比べて、少なくとも同等かそれ以上の効用水準を生みうるわけです。つまり、選択 肢の集合が大きいほうが、より幸せになりうるのです。

以上に述べたことは、実は経済学の基礎の基礎です。

一つ確かなことがあります。

それは、選択肢の集合を広げることができれば、広げる前より悪くなることはないと いうことです。

では、現実の世の中では選択肢の集合はどのように規定されているのでしょうか?

選択肢の集合

経済学では通常、選択肢の集合は、初期保有と技術によって規定されるとします。初 期保有とは、どの資源をどれだけ最初に持っているか、どのような権利を持っている かというようなことで、技術とは、ものを生産する技術です。簡単化のために、通常 は初期保有は、経済的資産だけであるかのように取り扱われますが、初期保有は、も っと広い概念です。社会規範とか、そういうものも本来は含まれるべきでしょうが、 経済の働きを解明するという目的からすれば、これは挟雑物に過ぎません。したがっ て、普通無視されるか、選好関係のなかに組み入れてしまって所与としていじること をしません。

わたしたちは、ここで経済学から離れることにします。 現実の世の中では選択肢の集合はどのように規定されているのかに、もう少し立ち入 って考えて見ることにします。

経済学で言及するような制約、たとえば予算制約などはもちろん制約としてわたした ちの選択肢を狭めます。しかし、良く周りを見回して見ると、それ以外にも多くの制 約条件があります。

それらは、法律であり、常識と言う名の社会規範であります。

たとえば、アジアの国々では、母親が赤ちゃんに授乳するのは、当然のことで、人前 でもはばかることではありません。しかし、カナダでは、人前で授乳すると、法律に 反します。カナダでは、母親は、人前で授乳するという選択肢を奪われているわけで す。この法律は、多くの人々の常識に支持され、社会規範としても成立しています。 カナダの人々は、どうしたわけか、自らの選択肢の集合を小さくして、到達しうる効 用レベルを低くしているのです。これは、合理的な行動とは言いかねます。(これに 対する反論は、後で述べます。)このような例は、いくらでも見受けられます。

では、一足飛びにこういった規制を全てはずしてしまったらどうなるでしょうか?選 択肢の集合は最大になるのでしょうか?

残念ながら、そういうわけにも行きません。それは、わたしたちが社会的動物である というところに起因します。私たちが行う行為は、多かれ少なかれ他の人にも影響を 与えるのです。たとえば、全ての法を撤廃した結果、人を強姦する権利も与えられて しまったとしましょう。すると、強姦された人は、強姦されない権利を剥奪されてし まったことになります。これでは、選択肢の集合が大きくなったとは言えません。こ のような、自分の行動が他の人に与える影響を外部性といいます。私たちが人前でや ることは、ほぼまちがいなく外部性を持つといえましょう(外部性には負の外部性と 正の外部性があります。前者の例が、公害や強姦で、後者の例が、私財を投げうって コンサートホールを作ったりということです)。結局問題は、外部性を考慮しながら 規制をはずして行くとき、どこで線を引いたら選択肢の集合は最大になるのかと言う ことです。

それは、一言でいうと、均衡において、ある規制を緩和した場合に、一人以上の人の 選択肢が狭められてしまう規制のみを残すということです。

例としては、まず物理的外部性を持つものを規制するべきだと思います。つまり、上 の例では、強姦する権利は与えないということです。人のものを盗んでもいけません 。無謀運転もいけませんということです。

均衡においてという言葉は、人が作り上げた社会規範等を条件として起きる負の外部 性は、これを考慮しないということを提案しています。なぜならば、このような負の 効果は、規制が解除される前はあるように見えますが、規制が解除された後は、なく なってしまうからです。もう少し厳密にいいますと、現在存在する規制が存在するこ とを条件として存在する負の外部性は、これを考慮しないということになります。

たとえば、人前で授乳する権利と、授乳を見ないですむ権利と、どちらをとるかとい うと、人前で授乳する権利をとるということです。いわば、自然の状態であったらど うであるかということです。服を着る着ないの権利も、これによれば与えられること になります。服を着るというのには、保温、おしゃれ、その他いろいろな目的があり ます。これらは、規制のあるなしとは無関係です。しかし、服の着用を強制されるの は、現在の社会規範に密接に依存しています。人々は、裸を見ない権利と、「青少年 を健全に育成する」権利を主張しているわけです。なぜ、裸を見たくないのでしょう か?それは、社会規範として、裸をみることは「はずかしい」ものだということが、 われわれの頭にインプットされているからです。この社会規範をはずしてしまうと、 裸を見ない権利を犯されたことによる外部性は消滅します。「青少年を健全に育成す る」権利というのは、これほどわけのわからないものはありません。そもそも、「健 全」とは何なのか?裸で暮らしている、ニューギニアの原住民は健全でないのか?野 性の動物は健全でないのか?結局、この「健全」という概念も、実は、現在私たちが おかれている社会規範という規制の下で成立している概念でしかないことがわかります。

最後に、合理性と効率性を考えます。このあたりは、経済学でさんざん議論されてい ますから、これ以上は言及しません。

これらのクライテリアで選択された規制以外は、全てを撤廃することを提案します。

再び選好関係について

さて、以上に述べたことは、哲学とか主義とか思想とかはたまた宗教とかとは何ら関 係のないことです。まっさらな頭で考えれば単に合理性でかたづくことです。既存の 宗教などと明確に違う点として、驚くほど少ない仮定しか置いていないことに注意し てください。

ただし、現実にこれを行うとすると、一つ考えなければいけないことがあります。そ れは、われわれの頭=選好関係は、スイッチを入れたり切ったりするほど簡単には切 り替えられないということです。と、いうことは、前に、「現在ある規制の存在を条 件として存在する負の外部性はこれを考慮しない」と書きましたが、実際には規制が なくなっても、負の外部性は即座にはなくならないことを意味します。

ということは、どういうことでしょう?そうです。われわれは、規制をなくす前に、 規制がなくなった場合に自分をあわせられるように、あらかじめ準備しなくてはなら ないのです。これは、思考実験を自分で繰り返し続けるということで、その意味にお いて、哲学とか思想とかに分類されることに属します。

さらに、民主主義社会で、上述のような規制緩和をおこなって行く場合には、この「 思想」を広めて行く必要があります。わたしは、これを読んでいるあなたにも、この 第1歩を踏み出していただきたいと思っています。100年かかるか、1000年かかるか わかりませんが、もし皆が合理的に考えるようになったら、少しづつ変わって行くこ とでしょう。

そして、私たちは今よりは、もうちょっとましな世の中に住めることになるでしょう。

規制解除の条件

規制解除の条件は、以下の様な簡単な数式でも表現できます。。

Xを全ての選択肢の集合、Sを社会の状態の集合とします。Sは規制の関数です。 X(s∈S)を実行可能な選択肢の集合とします。

効用関数を
u:X*S→R
で定義します。

個人の効用最大化問題は、

max u(x,s) s.t. x∈X(s)

です。
現在の状態を s0, 規制解除後の状態を s1 で表すことにします。
もし、全ての個人について
max u(x,s1) s.t. x∈X(s1)

max u(x,s0) s.t. x∈X(s1)

よりも大きければ、規制を解除するのが良い、となります。

問いかけ

最後に、いくつかの問いかけを記しておきましょう。 自分自身に問いかけてみて下さい。

  • 禁酒法は成果を上げましたか?
  • 売春防止法は売春をなくしましたか?
  • 麻薬や大麻は誰の資金源になっていますか?(ちなみに、大麻は麻薬ではありま せん。身体的依存性もないし、身体の損傷も引き起こしません。したがって、麻薬取 締法では取り締まれないので、大麻取締法があります。逆に、タバコやお酒は麻薬で す。)
  • 麻薬のもっとも大きな害悪は何ですか?
  • 中絶が禁止されている国では、どのようなことが起きていると思いますか?
  • 銃は規制するべきでしょうか?
  • あなたなら、どのように法律を改正しますか?規制解除の条件は、どのようにし ますか?

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