アップル、フランス当局から242億円の罰金を科される〜プライバシー保護の名のもとに市場支配力を強化?

フランス競争当局(FCA)は3月31日、アップルに対して1億5000万ユーロ(約242億円)という高額な罰金を科しました。問題となったのは、2021年から2023年にかけてアップルが導入した「App Tracking Transparency(ATT)」と呼ばれるプライバシー保護ツールです。

このツールはiOSユーザーのプライバシーを保護するという名目で導入されましたが、フランス当局の調査によると、その実装方法には競争法上の問題があったとされています。

ATTの仕組みと問題点

ATTは基本的に、アプリがユーザーのデータを収集して広告目的で使用する前に、明示的な同意を求めるというものです。一見すると消費者保護のための素晴らしい機能に思えますが、問題はその実装方法にありました。

具体的には:

  • サードパーティアプリには「過度に複雑な」ポップアップ表示が要求された
  • ユーザーは煩わしいポップアップに嫌気がさし、同意率が低下
  • 一方、アップル自身のアプリではシンプルなチェックボックス一つで済むように設計
  • アップルは同意を得たユーザーデータを自社の広告サービスに活用し収益化

この設計により、他のアプリ開発者が広告収入を得ることが難しくなった一方で、アップル自身は個人データを収集・活用して広告ビジネスで利益を上げていたと当局は指摘しています。

市場への影響と当局の判断

フランス競争当局によれば、この仕組みは特に広告収入に依存する小規模なアプリパブリッシャーに深刻な経済的打撃を与えました。興味深いことに、当局はATTというプライバシー保護ツール自体に問題があるのではなく、その実装方法が「必要でも比例的でもなかった」と結論づけています。

当局の声明では「異なるポップアップウィンドウ間の相互作用を規定するルールがフレームワークの中立性を損ない、アプリケーションパブリッシャーとサービスプロバイダーに明確な経済的損害を与えた」と指摘されています。

罰金の意味と今後の展開

今回の242億円という罰金額はアップルの四半期収益(2024年第4四半期で約19兆円)から見れば微々たるものですが、大手テクノロジー企業によるプライバシー保護を名目とした市場支配への警鐘として重要な意味を持ちます。

注目すべきは、フランス当局がATTの変更を義務付けなかったことです。アップル側も「本日の決定に失望していますが、フランス競争当局はATTに特定の変更を要求していません」とコメントしており、機能自体は維持される見通しです。

このケースは、デジタル市場におけるプライバシー保護と公正競争のバランスという難しい課題を浮き彫りにしています。ユーザーのプライバシー保護は重要ですが、それが特定企業の市場支配強化のツールとなってはならないという規制当局の姿勢が示されたといえるでしょう。

(参考文献)

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