米国時間8月18日の夕方、不倫専門出会い系サイト「アシュレイ・マディソン」[1]から盗まれた3,700万人分の、ヌード写真や性的妄想もふくむ顧客情報とクレジットカード情報が公開されたそうです。データの量は約10ギガバイト。通常の検索エンジンなどでひっかからない「ダークウェブ」への公開です[2]。
クレジットカードは止めれば良いですが、この「不倫希望者」というラベルの付いた名簿は、現在の世界では、それ自体のほうがプライバシー・インパクトが高いですね。また、その経済的な価値もかなりのものになりそうです。ゆすりに使えますからね。きっと、裏社会の人々が既に暗躍を始めているでしょうね。
こうした被害をなくするのに一番良いのは、「不倫?それが何か?」「そんなデータ、だれも興味無いよ。」というふうに、人々が「大人」になることですね。これを称して、JICS2013か何かのクロージング・パネルだったかなでは、私は「大人のプライバシーが今求められている。」とお話したことが有ります。
これから、どんどんデータは漏れだしていくのです。それは不可避でしょう。そのプライバシーインパクトは何故生じるか?それは、そのデータをプライバシー・インパクトがあるように使うからです。もし、そのデータが落ちていても、皆が見なかったことにすればプライバシー・インパクトは無くなるのです。
現在の、「データの漏洩=実プライバシー・インパクト」な状況は、使わなければ良い物を、みなが使ってしまうからですね。まるで、がきんちょ。そう、現状は「がきんちょプライバシー」な状況なのです。男女関係を追いかけるマスコミなんかもそうですよね。恋人同士を囃し立てる小学生みたいなもんです。
IoT時代、プライバシーデータの完全な制御も機密の確保もできなくなるでしょう。1999年1月に、サン・マイクロシステムズ社の社長だったスコット・マクニーリーが「ゼロ・プライバシー」という言葉を使いました。「もはやプライバシーなんて無いんだよ(ゼロ・プライバシー)。乗り越えて行けよ。」[3] 彼はこの言葉で袋叩きになったわけですが、今なら皆さんもこのこの言葉を噛みしめることができるのではないでしょうか。今風に言い直すなら、
もはや、だれも何もかも秘密にしておけるなんてことは無いんだよ。大人になれよ。
「他の人がきっと秘密にしておきたいと思ってるだろうなという情報に接したら、見なかったことにしてそっとしておけよ」[4]ということです。そう、これが「プライバシーを尊重する (privacy respecting)」ということ、すなわち「大人のプライバシー」なんですね。
少しでもはやく、人々が「大人」になることを祈念しております。
そうでないと、IoT時代、シッチャカメッチャカになりますよ!
[1] Ashley Madison: https://www.ashleymadison.com/
[2] Gizmode:『全米が泣いた。不倫サイトの顧客情報、本当にネット上に暴露される』, CNET:『不倫サイトAshley Madisonの会員情報、ついにネットで公開か–ハッカーらが声明』など、たくさん報道されています。
[3] Scott McNealy: “You have zero privacy. Get over it.” (1999/1) from Wired:”Sun on Privacy: ‘Get Over It'” (1999/1/26)
[4] 「プライバシーの権利は、そっとしておいて貰う権利(Right to be let alone)」だ。Warren & Brandeis の論文[5]の、プライバシーの権利を定義した有名な言葉ですね。味わい深い言葉です。
[5] Warren, S.D., Brandeis, L.D.:“The Right to Privacy” (1890), Harvard Law Review. Vol. IV December 15, 1890 No. 5
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