本人確認というのは身近でしばしば使われる言葉ですが、その実態は実はあまり理解されていない言葉のように思われます。
そこで、これからシリーズ化して、「本人確認って何」ということについて考えていきたいと思います。
「本人」とは?
さて、早速本題です。皆さん、「本人」「確認」ってなんでしょうか?こういう時は辞書をひくのに限ります。デジタル大辞泉によると、次のように定義されています。
ほん‐にん【本人】
1 その事に直接関係のある人。当事者。当人。「―に確かめる」「―次第」2 首領。張本人。
「城の―平野将監入道」〈太平記・六〉
かく‐にん【確認】
[名](スル)1 はっきり認めること。また、そうであることをはっきりたしかめること。「安全を―する」「生存者はまだ―できない」2 特定の事実や法律関係の存否について争いや疑いのあるとき、これを判断・認定する行為。当選者の決定など。
本人確認と言った場合、おそらく「本人」も「確認」もは1番目の意味をとっているのではないでしょうか?つまり、本人確認とは、
ほん‐にん かく‐にん【本人確認】
その事に直接関係のある人ということをはっきりたしかめること。
換言するならば、本人確認とは、まず
- 「その事」を明らかにして、
- 「その事」との関係性の確からしさを確かめ、そして
- 「その事」と肉体を関係付ける、
というプロセスのことを指します。それは「本人確認」と言った時には「その事」が指定されていないと意味が無いということです。言葉を変えれば、「一般的な本人確認」という行為はありえないということになります。
これは非常に重要なことです。
銀行に口座を作るときの本人確認を考えましょう。
銀行口座を作るには、まず口座開設申込書に氏名などを記入します。ちょっと専門的になりますが、このように自分で記入するような情報のことを、自己申請情報ないしは自己主張情報 (Claimed Identity) と言います。ここで嘘をつくインセンティブは本来あまりないはずなので、それなりに信用できるはずですが、更に確からしさを上げるためには、第三者がその申請者について記述した書類をチェックするのが有効です。たとえば、自動車免許証です。免許証には氏名、生年月日、住所などがのっています。しかも、全国統一フォーマットですから、偽造も比較的見抜きやすいでしょう。だから、免許証を見せられたら、まず本物っぽいかを確かめて、その上で、記載事項と申請内容とを突き合わせるのです。これらが一致していれば、その氏名・生年月日・住所の人は実際に存在するということはかなりの確度で言えるでしょう。
しかし、これだけでは、申請してきた人が、その人なのかどうかはまだわかりません。私たちの言葉では、肉体が情報に結びついて居ない状態です[1]。これを結びつけるのに使われるのが顔写真です。免許証の顔写真と、申し込みに来ている人の顔を見比べて、同じ人であるかどうかを確かめるのです。ここに至って、ようやく申請書と申請者が結びつきました。このプロセスを「本人確認」というのです。
しかし、銀行口座を作るときの本人確認は、このためだけに行なっているわけではありません。犯罪収益移転防止法の観点でも本人確認を行なっています。
犯罪収益移転防止法における本人確認の目的とは、犯罪による収益を洗浄したりする行為や、テロリストなどの犯罪者に対する資金提供を防止することです。この場合の「その事」とは「犯罪収益の移転」なのです。したがって、裏に「犯罪収益関係者データベース」があって、そこに資金の送り手、受け取り手[2]双方が登録されていないことを確認するということが、本人確認の内容になるはずです。
本人確認に氏名や住所は必須か?
ここまでの例で出てきた本人確認は、いずれも氏名や住所などが確認項目として出てきました。実際、日本で「本人確認」というと、殆どの場合は「基本4情報[3]」の取得をすることであるかのように誤解されていることがままあるように感じます[4]。しかし、これは間違いです。本人確認に氏名や住所が必要かというと、必ずしもそうでもないということがその結論になります。
例えば、、本屋さんで本を注文して買ったとしましょう。注文した時に料金は払って、引換証をもらっています。本が到着したときには、その引換証を使って本を受け取ります。この場合の本人確認とは、その本を注文しお金を払った人と、今受け取りに来ている人が同じであるということ確かめることです。それには、引換証を提示するだけで十分です。氏名も住所も必要ありません。この場合の「申請」とは、「私は本の受取人である」ということですが、それを証明するには「引換証」があれば十分だからです。
また、上記の「犯罪収益移転防止法」の観点からの本人確認は、ブラックリストDBが例えば「社会保障番号」で管理されていたならば、顔写真と納税者番号を確認すればよく、住所はおろか、氏名すら必要ないはずです。[5]
市役所などでの本人確認に「実名」や「住所」が必要なのは、市役所のデータベースのキー、つまり「本人確認」の時に比べるデータが「実名」や「住所」だからです。つまり、比較対象「文書」に入っている情報が、たまたま基本4情報だからなのです。
本人確認には必ずしも住所も本名も必要ありません。どのような情報が必要になるかは、その「肉体の持ち主」に関する「何を」確認しようとしているかによるのです。
[1] Link between bit and meat というようなことを言います。
[2] 特に受け取り手が重要。
[3] 氏名、性別、生年月日、住所。
[4] 上記の説明にあるように、取得した情報を、他の経路から得た情報と付き合わせることが本人確認の作業内容ですから、本人や代理人から4情報を聞くだけでは本人確認にはなっていません。
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この場合の「本人確認」というのは、英語で言う「Identity Proofing」なのでしょうか。
Googleで「本人確認」と検索すると、結果が780万件くらいあったのに対し、
「Identity Proofing」と検索すると、結果は220万件くらいでした。
「ホンニンカクニン」という概念は、英語圏であんまりポピュラーではない概念なのでしょうか?
あ。でも「ID CHECK」で検索したら、27億件でてきました。。Identity verification とか、いろいろ言葉があるということなんでしょうか。
日本語では何でもかんでも本人確認ですが、英語だと Identity Proofing, Identity Verification, Certification, Authentication などにわかれていて、それぞれ使い分けられています。日本語だとぐちゃっとしてしまって、精密な議論が出来ません。そこが残念なところです。実は、第2回では、英語だとどのように分かれているかということを書こうと思っていました。
なるほどですね。第二回、楽しみにまってます。 お忙しいとは思いますが、お身体もご自愛ください。