溝上日出夫とその弟子たちの歌曲の会

友人の作曲家、小山和彦さんの招きで、東京文化会館で催された「溝上日出夫とその弟子たちの歌曲の会」に行ってきた。国立音大の作曲科の教授だった故溝上日出夫氏を偲ぶために、弟子たちと氏の作品だけで構成された演奏会だ。

赤石敏夫氏の「うろこ雲」は、黒田佳子氏の詩の魅力をとても引き出した作品。手を広げてうろこ雲を受け入れてゆく感じがとても良く出ていた。調性がある、とてもスムーズな作品。

上野哲夫氏の「Good Night(上野哲夫詩)」はリュートを伴奏にしたマドリガル風の歌。

梅津美子氏の「宇宙の海(SORA NO UMI)(印南長子詩)」は、全音音階を使った、ちょっと印象派風の作品。

加藤文彦氏の「水のほとりに(三好達治詩)」はコンサート全体を通じて最も前衛的な作品。ヨーロッパにも日本に見られるメリスマ唱法や、母音の歌い継ぎを意識的に使った曲で、ところどころに語りのように詩のフレーズが入る。各母音には特定の音形が割り当てられている。面白い試みだが、う〜ん、ちょっとまだ消化不良かなぁ。詩の内在するリズムとかが、ちょっと見えにくくなる感じ。

小山和彦氏の「いまこの庭に(三好達治詩)」は、高次の和声の美しい曲。三好達治が2曲並んだが、詩にはこちらのほうがあっている感じ。調性はあると言うんだろうな、きっと、この曲も。

佐々木茂氏の「白い墓標(宮沢章二詩)」は、詩の印象のほうが強くて、実は曲はあまり覚えていない。田中範康氏の「冬(李承涼詩)」も、ちょっとあんまり覚えていない。残念。(帰り道にプログラムを落としてしまったので良く思い出せないのです…。)

中島良史氏の「人生処方詩集(寺山修二詩)より」は、他の曲よりもリズムに特徴があったり、モーツアルトの引用があったりと、さすがという感じ。結構好き。う〜ん、詩が良いなぁ。本当に。寺山修二って凄いと、今更ながらに思った。天才だ。

前半の最後は山下洋輔氏の「埋み火(原田隆峰詩)」。「溝上氏の親友が書いた詩に曲を付け、それを未亡人が歌う」、しかも、山下氏自身の伴奏というセッティングもあったのかもしれないが、凄かった。泣けてきた。曲が終わったとき、花粉症のふりをして鼻をかみながら、目をそっとぬぐった。

後半は、今日の主人公、故溝上日出夫氏の作品だ。私には、民謡風の「三誦(中勘助詩)」と、「中原中也による三つの歌曲」が面白かった。奇しくも両方ともテノールの田口興輔氏の演奏。

最後は、「いつも開いている劇場(Patrizia Cavalli詩)」。イタリア語がわかればねぇ。やはり、歌は歌詞を聞き取ることができないと魅力半減だ。残念。

あ、そうそう、それから三好達治の「日まはり」は、良い詩ですねぇ。

久しぶりに、行ってよかったと思える演奏会だった。なお、結構盛況だった。

言葉を愛した作曲家
溝上日出夫とその弟子たちの歌曲の会

日 時:2005年4月24日(日)
開 演:午後2時
会 場:東京文化会館小ホール
入場料:3500円(自由席)

●弟子たちの作品

赤石敏夫『黒田佳子の詩による二つの歌曲』より
うろこ雲

上野哲生
Good Night (上野哲生詩)

梅津良子
宇宙の海(印南長子詩)

加藤文彦
VP-006『水のほとりに』(三好達治詩)

小山和彦
いまこの庭に(三好達治詩)

佐々木茂
歌曲『白い墓標』(宮沢章二詩)

田中範康
冬(李承涼詩)

中島良史
「人生処方詩集」より(寺山修二詩)

山下洋輔
埋み火(原田隆峰詩)

●溝上日出夫作品

三つの花の歌(三好達治詩)
1. すみれ草
2. かよわい花
3. 日まはり

三誦(中勘助詩)
1. どんと山風
2. 俵ぐみ
3. 瑠璃鳥

雨の言葉(立原道造詩)

みずいろの花(三枝ますみ詩)

中原中也による三つの歌曲
1. 帰   郷
2. 夏の日の歌
3. 夕   照

いつも開いている劇場(Patrizia Cavalli)
1. これがあなたの望みだったのね、
この軽やかな愛が
2. 狂おしく、はてしない光は
3. 後ろから、遠くから、通りがかりに
4. あなたは私に話しかけたことがない 話して
5. いま私はわかったあなたが本当に海だということを


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