まずはじめに言っておく。わたしはM&A擁護派である。時間を買うためにはM&Aで事業を発展してゆくのは当然であると考えている。実際、そういったことを手がけてもいる。
また、「飢饉のときの隣地買い」が、事業拡大のセオリーであるというのも私の主張である。こんなもの、歴史を紐解けば、当然のことであるというのはすぐにわかるはずだ。逆に、これまでの不況局面で、キャッシュがあるのに買収戦略をとっていなかった企業は、経営をわかっているのかといいたくなる。
が、今回のニッポン放送買収劇には違和感がある。
なにも、ネット企業と放送メディアとは文化が違うとかそういう問題ではない。最近の報道では、ニッポン放送からフジテレビへ出された新株予約権の商法上の違法性(*2)が取りざたされているが、それ以前に問うべきことがある。ライブドアの今回の株式の購入方法は適法かということである。
確かに金融庁は「適法」とコメントしている。しかし、ほとんどの報道はその前提を記していない。その前提とは、「ライブドアが、株の売り手と(直接・間接を問わず)事前情報のやりとりをして、市場を取引の場としたブロックトレードを行ったのではなく、単に偶然に普段は取引量がない時間にそんな大量の株式の取引が一瞬で成立したという『奇跡(堀江氏談)』が起きたのが事実ならば、適法である」ということなのである。
もちろん、現実の世界では『奇跡』など起きない。上記の条件はほとんど空集合である。いわば、「1+1=3が正しいのならば適法である」と言っているに等しい。その「適法である」という部分だけを取り上げるのは、マスコミ得意の「なんとでも言う自由(山本夏彦氏)」としか言いようがない。
金融庁のようなオーソリティは、マスコミと違っていい加減なことを言うのは許されない。したがって、違法取引の証拠がない現状では、上記のような言い回しにならざるを得ない。しかし、今回の法律の改正案を見ればわかるように、認めているわけでは無い。ニッポン放送が訴えを起こしたが、起こされなくても既に調べ始めているはずである。しかし、多くの株の不正取引同様、証拠はなかなか出てこないだろう(*1)。
私の違和感はこの点に立脚している。普通の犯罪で言えば、今回の状況は、状況証拠は真っ黒。被疑者にアリバイもない。しかし、物証は一切無いし自白も無い、という状態だ。それを、「正当な行為なのだ。こうしなければ変わってゆかない」などと賞賛するような報道には、非常に違和感を覚える、そういうわけだ。
私は、堀江氏はきちんとTOBをかけるべきだったと思う。それでもほぼ同様の株式取得が出来たであろう。残念だ。いずれにせよ、ライブドアは結構苦しい立場にあると考えて差し支えないだろう(*3)。
追記:(3/7 14:45)
(*1) この辺りの経緯について、外国人記者クラブでの会見で堀江氏が発言した内容がIsologueに書いてあるのでそちらもご参照いただきたい。基本的には、サウスイースタンと取引の事前打ち合わせがあったと考えても良いような発言である。
(*2)新株予約件の違法性:確かに微妙だと思う。過去の判例で言えば、差し止めになるだろう。しかし、フジ側の目的はもともと新株発行にあるのではなく、ライブドアに供託金の形で資金を吐き出させてしまう狙いがあるのではないか?(弥七参照) また、これも当初から言われていたが、仮処分が出れば、ライブドアが経営支配を目的とした新株割り当てをすることも出来なくなる。つまろ、二重の意味でライブドアを縛る意味があるように思える。
(*3)基本的に、ライブドアがフジテレビの経営に影響を及ぼすことは、どちらにせよ出来ないと思われる。フジ/ニッポン放送側には、ホワイトナイトを探すとか、自社株買いをするとか、いくらでも打つ手がある。
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3/14 追記:
(*2) で考えていた供託金は5億円と意外に安かった。
ライブドアの立会い外取引の違法性については、12日の日経記事の早稲田の教授の論が正鵠を得ていると思う。有念理論に引用あり。
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ニッポン放送(にっぽんほうそう)
会社概要
業 種:放送法に基づく一般放送事業(AMラジオ放送)ほか
設 立:昭和29年4月23日
開 局:昭和29年7月15日
本 …
堀江社長 前妻と長男の存在
ひょっとしたら、これが致命傷になるかもしれない。
ニッポン放送株の買い占めをめぐり、ここにきてフジサンケイグループに徹底抗戦しているライブドアの堀江貴文社長(32)。私生活の“弱み”がクローズアップされている。
99年、