The Art of Xylos 〜Alex Jacobowitz の新録音〜

〜Alex Jacobowitz, Marimba, ARTE NOVA Classics, BMG Entertainment〜

Art of Xylos

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低音のパイプの音が唸り、高音がすすり泣き、あるいは静寂の中に音の一粒一粒が溶けて行く。Alex Jacobowitz の最新録音「The Art of Xylo」は、多くの場合忘れられているこの楽器の本当の能力をわれわれの前に提示してくれる。

ある楽器がソロ楽器として確立するとき、必ずその曲をその楽器で演奏することの必然を生み出す演奏家が出る。Alex Jacobowitz は、マリンバにとってのそのような演奏家になる第一歩を踏み出しているといえよう。

Jacobowitz の演奏は、思い入れのあまりかルバートを多用しており、それが故に、時として音楽の流れが破綻をきたしている。無難ということでは、アレンジモノで言えば、Safri Duo の Gold Rush だとか、Leigh Howard Stevens の Marimba When などの方が遥かに無難である。しかし、これらの演奏は、私にとっては、ピアノやチェンバロで聞いたほうがよくなってしまい、マリンバ演奏で聞く必然性が見当たらない。テクニック的には感心するのだが、純粋に音楽として聞く必然性が無いのだ。

それに対して、Jacobowitz の「The Art of Xylos」は、マリンバの響きの魅力を最大限に引き出して、音楽として提供している。広いダイナミックレンジ、音色のバリエーション、音が消えてゆく過程までも聞かせる彼の演奏によって、ここでは、バッハやベートーベンが、立派にマリンバの曲になっているのだ。

たとえば、この録音を聞くまでは、私にとって、ベートーベンの「月光」をマリンバで弾くなどということは、夢想だにすることができないことだった。あのピアニズムの極地のような名曲を、ピアノ以外で弾くことなどありえなかったのだ。それが、この演奏を聞くと、ベートーベンは作曲のちょうど200年後、マリンバで演奏されることをも想定して書いたのではないかとまで思えてくる。(最後の2音の処理ががちょっと惜しいが!)

シューマンのトロイメライだってそうだ。この曲はホロビッツで聴くものと私にとっては相場が決まっていたのだが、Jacobowitz も良い線行っているのだ。モーツアルトの幻想曲も、「そう処理するかぁ」という感じ(まぁ、不満が残るところも数ヶ所あるが…)だし、バッハのシャコンヌも聞かせてくれる。(半音階的幻想曲も良いのだが、時々スケールの流れが止まるのが惜しい。)「展覧会の絵」も良い味を出しているし、「アルハンブラの思い出」も、初めての人が聞いたら、マリンバのための曲だと思うのではないか?

付随的なことではあるが、録音もすばらしい。人工的な残響を一切加えていないということだが、この録音は、Jacobowitz の弾くアダムスの5オクターブの楽器(1994年製のVan Sice モデル)とホールの響きを最大限に引き出している。特に低音と、空間に音が溶けて行く感じがすごいので、ラジカセなどではなく、ぜひしっかりと低音が出るステレオで聞いてほしい。(ヘッドホンよりもスピーカーで聞いたほうが気持ちが良い録音なので試してほしい。ヘッドホンだと、マレットがバーにあたる打音がちょっと気になってしまう。)

マリンバが好きであれば、ぜひコレクションの1枚に加えるべきCDだし、これまでマリンバにあまり興味が無かった方にも是非聞いていただきたいCDだ。

2002-04-20
(崎村 夏彦)

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The Art of Xylos

Alex Jacobowitz, Marimba

録音時間:67:40

ARTE NOVA CLASSICS (BMG)

AN 74321 91300 2

楽器:Marimba = Adams製 Robert Van Sice Model (5 Octave) 1994年製

[註:CDのジャケットや解説書の中では、Xylophone (シロフォン)と書かれているが、実際にはマリンバででの演奏である。]
ファリャ 〜三角帽子より〜
「Miller の踊り」

タレーガ
「アルハンブラの思い出」

ムソルグスキー 〜展覧会の絵より〜
「Samuel Goldenberg & Shmuyle」
「古城」

J.S. バッハ
「半音階的幻想曲」
「シャコンヌ (無伴奏パルティータ第2番より)」

クープラン
「Les Baricades Misterieuses」

ドビッシ− 〜前奏曲集 第1集より〜
「亜麻色の髪の乙女」

サティ
「ジムノペディ 第1番」

スマッドベック
「リズムソング」

ユダヤ古謡
「Firm di Mechatonim Aheim」

ベートーベン 〜ソナタ「月光」(1801) op.27 no.2 より〜
「第1楽章 アダージョ・ソステヌート」

モーツァルト
「幻想曲 ニ短調 KV 397」

シューマン 〜子供の情景 op.15 より〜
「トロイメライ」

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