一般社団法人MyDataJapan 理事長 﨑村夏彦
時間:10:05〜10:20
MyData Japan 2026 — Revisiting MyData
[Slide 1] MyData Japan 2026 — Revisiting MyData

皆さん、おはようございます。
MyData Japan 2026にご参加いただき、ありがとうございます。
本題に入る前に、昨日の熊本の地震について申し上げます。
昨日午後4時27分頃、熊本県熊本地方を震源とする大きな地震が発生し、宇城市と氷川町で震度7を観測しました。
被害の全容はまだ明らかではなく、救命・救助と安否確認が続いています。
余震への不安の中で夜を過ごされた皆様、被災されたすべての皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
安否の確認と、救助を待つ方々の一刻も早い救出、そして被災地の安全をお祈りいたします。
また、危険な状況の中で救助、医療、復旧、支援に当たっている皆様に、深く敬意を表します。
[Slide 2] データは、命をつなぐ

こうした災害のとき、デジタルアイデンティティとMyDataは、抽象的な理念ではありません。
- 「無事です」と伝える。
- 助けを求める。
- 自分では助けを求められなくなった人を見つける。
- 被災者であることや、必要な支援を受ける資格があることを証明する。
- そして、支援を必要な人へ、速く、確実に届ける。
そのどれにも、自分に関するデータが関わります。
- 人が、自分に関するデータを、自分の目的のために使えること。
- 必要以上の情報を明かさずに、自分の状況を伝えられること。
- 通信が途切れ、端末を失い、普段の証明書類を持ち出せない状況でも、人と支援をつなげられること。
それは、文字どおり命をつなぐ力です。
そして、それこそがMyDataの出発点です。
[Slide 3] 人々が、自分自身のデータによってエンパワーされる

今年改訂されたMyData宣言は、最初にこう述べています。
MyDataは、人々が自分自身のデータによってエンパワーされる世界の構築を目指す。
ここで中心にあるのは、データではありません。
人々です。
- 自分たちの目的のために、自分たちのデータを利用できること。
- 人権と法的なデータの権利を、実効的に主張できること。
- データに関する力の不均衡や濫用から、安全に守られること。
- 誰がデータを収集し、利用しているのか。
- その利用に、自分がどう関与できるのかを理解できること。
- そして、そのエンパワーメントは、個人だけの利益にとどまりません。
- コミュニティや社会にとっても利益となり、自己実現と新しい機会を生み出す。
宣言が目指すのは、公正で、透明で、人間中心のデータエコシステムです。
[Slide 4] 一つのentity、多くのidentity

では、人がデータによってエンパワーされるとは、具体的にどういうことでしょうか。
人は、一つのプロフィールではありません。
存在としての私は一人です。
しかし、identityとしての私は一つではありません。
- 家族との関係にある私。
- 仕事をする私。
- 患者としての私。
- 市民としての私。
- 友人としての私。
- 被災者として支援を求める私。
- 支援する側として行動する私。
identityは、固定された番号ではありません。
ある関係性、あるコンテキストの中で示される、認識された属性の集合です。
私たちは、自分に関するデータを使って、相手に自分を表現します。
- 必要な属性を示し、必要でない属性は示さない。
- 誤解があれば、別の情報を加える。
そうして関係性を築き、自分が望む方向へ関係を少しずつ調整していく。
自分に関するデータを使って、自分をよりよく表現し、関係性を築けること。
これが、MyDataが目指す主体性の重要な一面です。
[Slide 5] コンテキストは重なり合う

現実のコンテキストは、きれいに分かれてはいません。
- 同僚が近所の人でもある。
- 医療者が昔の知人でもある。
- 行政の担当者が地域コミュニティの一員でもある。
- 被災者が、同時に社員であり、親であり、介護者でもある。
この重なりは、悪いことではありません。
人間の関係が豊かであるということです。
問題は、自分が意図したコンテキストを外れて、データが使われるときに起きます。
- 医療のために示した情報が、雇用の評価に使われる。
- 支援を受けるために示した情報が、広告やプロファイリングに使われる。
- ある場面での行動から、別の場面での人物像を推定される。
- 複数のコンテキストが、本人の知らないところで結合され、一つのプロフィールとして固定される。
同じデータでも、ある関係では人を助け、別の関係では人を傷つけます。
人の幸福度を下げるのは、データの存在そのものではありません。
データが、誰に、どのコンテキストで、何のために使われたかです。
[Slide 6] 守るのは人。データ保護は、そのための手段

だから、守るべきものはデータそのものではありません。
守るべきものは、人です。
人の尊厳です。
人が関係性を築き、自分を表現し、よりよく生きる可能性です。
データ保護は、そのための手段です。
- 収集を最小化する。
- 処理するデータを最小化する。
- 目的を限定する。
- 必要な属性だけを選択的に開示する。
- コンテキストを越えて追跡できる識別子を避ける。
- 利用を透明にする。
- 説明を求め、異議を申し立て、誤りや不利益を是正できるようにする。
- そして、Privacy Impact Analysisを行う。
PIAは、チェックリストに印を付ける作業ではありません。
- 誰に、どのような影響が起きるのか。
- 平均的な便益だけでなく、最も大きな不利益を受ける人は誰か。
- その影響を避け、減らす別の設計はないのか。
それを継続的に問い直すプロセスです。
私は、ISO/IEC 29100のProject leaderとして、またOpenID Connectの主著者、JWTとJWSの著者として、規格とプロトコルを書いてきました。
そこで繰り返し突きつけられるのは、主体、目的、受け手、コンテキストを曖昧にしてはいけない、ということです。
正しく署名されたデータであっても、意図しない相手へ、意図しない目的で渡れば、人を傷つけます。
技術的に検証できることと、その利用が正当であることは同じではありません。
[Slide 7] 選べる。任せられる。選ばなくても困らない。

MyDataJapan Vision 2026は、目指す社会をこう定めています。
人間中心のデータ利活用により、公正で持続可能で多様なウェルビーイングを実現できる社会。
このVisionは、人を孤立した意思決定者として扱いません。
関係的自律を掲げています。
自律とは、誰にも頼らず、すべてを一人で判断することではありません。
他者との関わりや社会的な環境の中で、自分らしく決定し、行動できることです。
だから、必要なのは三つです。
- 選べること。
- 信頼できる人や仕組みに任せられること。
- そして、選ばなくても困らないこと。
データ利用の透明性と説明責任を高める。
個人がアクセスし、関与できるようにする。
データを適切かつ簡易に管理し、活用できる仕組みを作る。
自分のデータを知り、活かすことで、自分の暮らしと社会を良くする。
つなぐ。
関わる。
行動する。
これが、MyData JapanのVisionです。
[Slide 8] 2026年、コンテキストは「推論され」「行動される」

では、なぜ今、Revisiting MyDataなのでしょうか。
AIによって、データをめぐる問題の重心が変わったからです。
AIは、示された属性だけを扱うのではありません。
データから、新しい属性、傾向、リスク、人物像を推論します。
推薦し、順位を付け、判断します。
AIエージェントは、さらに、その判断に基づいて行動します。
- 検索する。
- 選択する。
- 交渉する。
- 購入する。
- 申請する。
- 契約する。
問われるのは、誰がデータを持つかだけではありません。
- 誰が、誰についてidentityを構成するのか。
- どのコンテキストのためなのか。
- 誰の目的に従うのか。
- 誰の権限で行動するのか。
- そして、その結果について誰が責任を負うのか。
年齢保証も同じです。
目的は、年齢を確認することではありません。
目的は、青少年をはじめとする人々に、安全で、包摂的で、表現や学習や参加の機会を損なわないデジタル空間を提供することです。
必要なのが「所定の年齢条件を満たす」という証明だけなら、完全な身元を集める必要はありません。
しかし、属性を最小化するだけでも足りません。
- 追跡されないこと。
- 代替手段があること。
- 誤判定に異議を申し立て、是正できること。
常に、手段ではなく、人への影響から設計を始める必要があります。
[Slide 9] 今日のプログラムは、一つの問いを別の角度から見る

今日のプログラムは、すべてこの問題につながっています。
10時20分からのAI倫理とデータ主権。
個人の倫理観まかせにも、組織のチェックリストだけにもせず、人への影響をどう統治するのか。
13時からのAIエージェント時代のデジタルアイデンティティ。
エージェントは誰として、誰の目的のために、誰の権限で動くのか。
14時25分からのEUデジタルオムニバスと、16時からの改正個人情報保護法。
制度の重なりや不整合を減らしながら、透明性、説明責任、異議申立て、救済という人間中心の条件をどう守るのか。
17時25分からのガバナンス運用のリアル。
原則やガイドラインを、現場で判断し、記録し、監査し、改善し、救済できる仕組みにできるのか。
どれも、別々の話ではありません。
そのシステムは、人々をエンパワーするのか。
それとも、人を、本人が関与できないプロフィールの中へ閉じ込めるのか。
その一つの問いを、技術、制度、事業、社会の異なる角度から考える一日です。
[Slide 10] Revisiting MyData

Revisiting MyDataは、過去へ戻ることではありません。
目的へ戻ることです。
- データを囲い込むことが目的ではない。
- データを流通させること自体が目的でもない。
- 人々が、自分に関するデータを、自分自身の目的のために、コミュニティや社会の目的のために活用できること。
- そのデータを使って、関係性とコンテキストを築き、自分をよりよく表現できること。
- その結果として、自分の暮らしと、コミュニティと、社会をより良くできること。
- そして、意図したコンテキストを外れた利用によって、人を傷つけず、幸福度を下げないこと。
今日の各セッションで、ぜひ問い続けてください。
- そこにいる人は誰か。
- その人は、どの関係性とコンテキストにいるのか。
- 誰の目的のための処理なのか。
- 本当に必要なデータは何か。
- 本人は理解し、関与し、異議を述べ、回復できるのか。
人々を、自分自身のデータによってエンパワーする。
それがMyDataです。
本日の対話が、そのための次の一歩になることを期待しています。
それでは、MyData Japan 2026を開会いたします。
ありがとうございました。
MyData-Japan-2026-開会宣言-ver.3
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