国民ID制度の目的、定義と要件〜GIEシンポジウム「国民IDを考える」にあたって(1)

さて今日は、GIEシンポジウム「国民IDを考える」の当日なわけだが、パネルディスカッションの最初のスピーチはわずか5分。5分ではおもいっきり話すことを絞らざるを得ず、そもそも論はできないので、前後のパネリストのプレゼンの流れの中でほんの一部の話だけするが、そこだけが重要と思っているわけではないので、ちょっとここにまとめておこうと思う。

まず、議論を始めるにあたり、「国民ID制度」を定義しなければならない。これは、国民ID制度については、この言葉の発祥もとの一つとなった今年の5月11日に発表された「新たな情報通信戦略」を根拠として分析することで、政府の意図したものを定義することができる。

そこで、これを以下に引用してみる。

I.基本認識
情報通信技術革命の本質は情報主権の革命である。政府・提供者が主導する社会から納税者・消費者である国民が主導する社会への転換には、徹底的な 情報公開による透明性の向上が必要であり、そのために情報通信技術が果た す役割は大きい。
国民が主導する社会では、市民レベルでの知識・情報の共有が行われ、新たな「知識情報社会」への転換が実現し、国民の暮らしの質を飛躍的に向上さ せることができる。
今回の情報通信技術戦略(IT戦略)は、過去のIT戦略の延長線上にある のではなく、新たな国民主権の社会を確立するための、非連続な飛躍を支え る重点戦略(3本柱)に絞り込んだ戦略である。また、これは、別途策定される新成長戦略と相まって、我が国の持続的成長を支えるべきものでもある。

このため、戦略の実施に当たっては、これまでの関連政策が効果を上げていない原因を徹底的に追求し、IT戦略以外の各政策との連携、関係府省間の 連携、政府と自治体との連携、政府と民間との連携等を具体的に進め、新た な国民主権の社会が早期に確立されるよう、国を挙げて、強力に推進する。

II.3つの柱と目標

「国民主権」の観点から、まず政府内で情報通信技術革命を徹底し国民本位の電子行政を実現する。加えて情報通信技術の徹底的な利活用により地域の絆 を再生し、さらに新市場の創出と国際展開を図る。

1.国民本位の電子行政の実現

○ 2020 年までに国民が、自宅やオフィス等の行政窓口以外の場所において、国民生活に密接に関係する主要な申請手続や証明書入手を、必要に応じ、週 7 日 24 時間、ワンストップで行えるようにする。この一環として、2013 年 までに、コンビニエンスストア、行政機関、郵便局等に設置された行政キオ スク端末を通して、国民の 50%以上が、サービスを利用することを可能とす る。
○ 2013 年までに政府において、また、2020 年までに 50%以上の地方自治体において、国民が行政を監視し、自己に関する情報をコントロールできる公平 で利便性が高い電子行政を、無駄を省き効率的に実現することにより、国民 が、行政の見える化や行政刷新を実感できるようにする。
○ 2013 年までに、個人情報の保護に配慮した上で、2次利用可能な形で行政 情報を公開し、原則としてすべてインターネットで容易に入手することを可 能にし、国民がオープンガバメントを実感できるようにする。

国民ID制度は、この「国民本位の電子行政の実現」の中に入っている。

ちなみに、あとの2本の柱は、

2. 地域の絆の再生
3. 新市場の創出と国際展開

だが、国民ID制度の定義とは直接関係ないのでここは飛ばす。

再び引用してみる。

III. 分野別戦略

1.国民本位の電子行政の実現
(1) 情報通信技術を活用した行政刷新と見える化
【重点施策】
○ 行政サービスの中で、利用頻度が高く、週 7 日 24 時間入手できることに よる国民の便益が高いサービス(例:住民票、印鑑証明、戸籍謄抄本等の 各種証明書の入手等)を特定し、それらをオンライン又は民間との連携も 含めてオフライン(例:行政キオスク端末)で利用できるようにする。
○ 社会保障の安心を高め、税と一体的に運用すべく、電子行政の共通基盤として、官民サービスに汎用可能ないわゆる国民ID制度の整備を行うとともに、自己に関する情報の活用については、政府及び自治体において、本人が監視・コントロールできる制度及びシステムを整備する。
○ 電子行政推進の実質的な権能を有する司令塔として政府CIOを設置し、 行政刷新と連携して行政の効率化を推進する。その前提として、これまで の政府による情報通信技術投資の費用対効果を総括し、教訓を整理する。 その教訓にもとづき、上記施策を含め、電子行政の推進に際しては、費用 対効果が高い領域について集中的に業務の見直し(行政刷新)を行った上 で、共通の情報通信技術基盤の整備を行う。クラウドコンピューティング 等の活用や企業コードの連携等についても、その一環として行う。

ようやく「国民ID制度」が出てきた。

この(1) 情報通信技術を活用した行政刷新と見える化は、

i) 電子行政推進の基本方針を策定
ii) 行政サービスのオンライン利用に関する計画の策定
iii)行政ポータルの抜本的改革と行政サービスへのアクセス向上
iv)国民ID制度の導入と国民による行政監視の仕組みの整備
v)政府の情報システムの統合・集約化
vi)全国共通の電子行政サービスの実現
vii)「国と地方の協議の場」の活用

によって行われることになっている。

「国民ID制度」に関しては、この「iv)国民ID制度の導入と国民による行政監視の仕組みの整備」でようやく詳細が語られる。

iv)国民ID制度の導入と国民による行政監視の仕組みの整備

社会保障・税の共通番号の検討と整合性を図りつつ、個人情報保護 を確保し府省・地方自治体間のデータ連携を可能とする電子行政の共通基盤として、2013 年までに国民ID制度を導入する。 併せて、行政機関による運用やアクセスの状況を監視する第三者機関の創設、公的ICカードの整理・合理化を行う。また、インターネ ットを通じて利便性の高いサービスを提供するため、民間IDとの連携可能性を検討する。 さらに、各種の行政手続の申請等に際して、既に行政機関が保有している情報については、原則として記載・添付が不要となるよう行政 機関における適切な情報の活用を推進するとともに、行政機関が保有 する自己に関する情報について、国民が内容を確認できる仕組みを整 備する。【内閣官房、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済 産業省等】

これらより、国民ID制度は次のように定義される。

【定義】国民ID制度は、社会保障・税の共通番号の検討と整合性を図りつつ、個人情報保護 を確保し府省・地方自治体間のデータ連携を可能とする電子行政の共通基盤であり、政府及び自治体における自己に関する情報の活用を本人が監視・コントロールできる制度及びシステムである。

また、国民ID制度の目的とは以下のようにまとめることができる。

【ビジョン】情報主権を政府・提供者から納税者・消費者である国民へ転換、市民レベルでの知識・情報の共有を通じた新たな「知識情報社会」への転換を実現し、国民の暮らしの質を飛躍的に向上させる。

これを実現するための基本的な手段は、

【戦略】徹底的な情報公開による透明化

である。そして、これを実現するためのアクションが、「1.国民本位の電子行政の実現」であり、これを(1) 情報通信技術を活用した行政刷新と見える化と(2) オープンガバメント等の確立によって行うとしている。

【アクション】
1.国民本位の電子行政の実現
(1) 情報通信技術を活用した行政刷新と見える化
(2) オープンガバメント等の確立

というわけで、国民ID制度の要件をまとめると、以下のように言うことができるであろう。

国民ID制度の要件

  1. 国民ID制度は、政府・提供者が主導する社会から納税者・消費者である国民が主導する社会へと情報主権を逆転させるものでなければならない。(基本ポリシー。これに反するものは、以下のいずれに合致しても受け入れられない。)
  2. 国民ID制度は、府省・地方自治体間のデータ連携を可能とするものでなければならない。
  3. 国民ID制度は、個人情報の保護を徹底するものでなければならない。
  4. 国民ID制度は、政府及び自治体における自己に関する情報の活用を本人が監視・コントロールできる制度及びシステムでなければならない。
  5. 国民ID制度の実施にあたっては、行政機関による運用やアクセスの状況を監視する第三者機関の創設しなければならない。
  6. 国民ID制度の実施にあたっては、公的ICカードの整理・合理化を行う。
  7. 国民ID制度の実施にあたっては、インターネ ットを通じて利便性の高いサービスを提供するため、民間IDとの連携可能性を検討する。
  8. 国民ID制度では、各種の行政手続の申請等に際して、既に行政機関が保有している情報については、原則として記載・添付が不要となるよう行政機関における適切な情報の活用を推進しなければならない。
  9. 国民ID制度では、行政機関が保有する自己に関する情報について、国民が内容を確認できる仕組みを整備しなければならない。

これだけ整理しておけば、少しは今日の議論が楽かな?

(この項つづく…)

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